エスペランザの限定リリース新作『Exposure』

新作『Exposure』へのさまざまな仕掛け

変化を求める姿勢

2017年の3月にEmily D+Evolutionのコンセプトから離れた自由度の高いトリオで急に来日してライヴをおこなったエスペランサ・スポルディングが、7月くらいに新しい作品の予約を突然募集した。

その時に発表されたのが

・プロジェクト名は『EXPOSURE』
・プレス枚数は7777枚
・レコーディングは9月
・レコーディング時間は77時間
・様子は全部配信

ということだった。

私はこういうのに乗っかってみるのが割と好きなので早速予約をしたのです。

実はArtistShareが始まった時とかもやってみたり、KickStarterなんかの面白そうな募集とかもやります。

最近はクラウドファンディングでのレコーディングが大分増えていて、事前にリスナーの確保とプロモーションが出来るということは、ミュージシャンにとってのメリットがある。もし金額の目標を達成出来なかったとしてもこの二つの効果は大きい。その後、メジャーからリリースされるとしても、プロモーション費がかぎりなく削減されている、またはいしたい昨今の事情を考えるとより広がっていくだろう。

それで今回のエスペランサの方法は、昔たまにあった限定1万枚とかの方向性に近いものだ。グラミーも取っていることを考えると、7777という数字が世界マーケットとしては少なく感じるが、だいたい2日かかって予約は閉じられた。

そうして考えるとCDやLPの割合というのは本当に少なくなっているんだろうということが予測される。ただ、事前に募る場合にデータだけというのは引きが弱いのだろう。こういうのに参加するのは重度のファンか私のようなどんなもんだろう体験型の人かということになるとそれほど多くないのだろう。

公約通り、9月12日にFacebookのEsperanza Spauldingのアカウントからレコーディングの模様がリアルタイムで配信された。大きなタイマーが77時間からカウントダウンされていて、休憩中の様子や呼ばれたミュージシャンが登場する様子なんかも映し出されていた。

ただ、これを流石に追う77時間の余裕は自分はなくて、多分見たのはトータル30分くらいだと思う。寝る前にiPhoneで見ていたら壁一面に歌詞を書き出したり、コンソールでエンジニアがこちょこちょいじったりしていた。

つまり『Exposure』、日本語で暴露というそのまんまの内容である。全ての過程をさらけ出して、出来上がるものを楽しませる。音楽の時間芸術としての意味がここにある、ということなのだろう。

11月の末にはメールで『EXPOSURE』のプレスが終わったから、ナンバリングして発送しますというメールが来ていた。その時、全部にエスペランサがサインを入れ、歌詞を書いた大きな紙を7777等分してジャケに貼付けて送るという、いわゆる「一品もの」にするということだった。それでも12月の半ばには発送しますと連絡が来たので「さすが、エスペランサはワーカホリックだな(笑)」と思った。

実はもう一つ仕掛けがあって、「oiid」というアプリのリリースに合わせて、押し曲が1曲先に聴けますよというアナウンスが来た。これが、全部のトラックをバラバラにボリュームがいじれる、コード進行が出る、映像付きというものだった。最初の日にドラムとピアノ、ベースだけが聴けたのだった。その翌日はギター、さらに翌日にコーラス、最後にメインヴォーカルというものだった。

一々手が込んでいる。

SNSを見ているとクリスマス直後くらいにはアメリカでは届き、日本で自分の手元に届いたのは1月10日くらいだった。

作りこまれた印象

実は3月のライヴから“次の新作は割と自由なセッションぽい感じかな”とか思っていた。割とエスペランサは作品を作り込んでくるからそういうのは彼女にしても割と新しい感じもするなと思っていた。

ただ配信の感じを見た限りではそんな感じではなく、やっぱりきっちりと作り込んであった。「EXPOSURE」の肌感覚は前作のEmily D+Evolutionの延長ぽい感じがある。どこか不思議な世界観。

参加ミュージシャンはエスペランサの他に

Ray Angrry(レイ・アングリー)(Key)
Mattew Stevens(マシュー・スティーブンス)(G)
Justin Tyson(ジャスティン・タイソン)(Dr)

というメンバーがレギュラー。

これにロバート・グラスパー、アンドリュー・バード、レイラ・ハザウェイがゲストで参加している。

ロバート・グラスパーはアプリ配信の押し曲”Heaven in Pennies”で大々的にフィーチャーされていて、ハーモニーの感じがかなりグラスパー節だ。映像では爪楊枝を加えながらスウィートなプレイを聴かせている。

レイラ・ハザウェイはマシュー・スティーヴンスがアコースティックギターを叙情的に弾く、静かでものすごく幻想的な”Coming to Life”でリードヴォーカル、他にもコーラスで参加している。この”Coming to Life”がものすごくモノクロームで、エスペランサのベースも含めて、この世じゃない景色を描いている感じがする。

アンドリュー・バードとのデュエット、“The Ways You got the Love”はすごくシンプルな楽しい雰囲気なのだが、すこし変わった景色を描く。

全体的にもそうした不思議な景色があって、ジャスティン・タイソンのドラムは迫力があるんだけれど、独特のエスペランサワールドが強くあって何をやっても彼女の音楽に支配されている。チェンバーミュージックソサエティの頃から、少し変わった、でもメロディアスな曲をエスペランサは歌う。そういったアブストラクトなものも、彼女が歌うことでポップに仕上げている。

全体としてはバンドの一体感は高い。特にギターのマシュー・スティーブンスと鍵盤のレイ・アングリーの住み分け。あと、楽曲の構造としては歌、ギター、ベースで8割仕上がっている感じの曲が多く、ギターの要素が強い。マシューの音は相変わらず、乾いていて少しヒステリックだが、それがエスペランサの表現したい、少し不気味な世界観にあっているのだろう。

ベースだけの弾き語りの曲”I do”でもすこし奇妙な感覚は同様だ。曲はメロディアスだが全然、ポップじゃない。何なら弾き語りで口ずさみたくなるような感覚はほとんどないのではないだろうか。

あとはジャズ的なものというよりは、もっと総合音楽を瞬発力をもって作っている感じだ。

よく比較されるプリンス、、、、。うーんどうだろうか。プリンスのほうがもっとポップで肉体的でわかりやすい。ただ、彼女が大きく影響を受けているのもわかる。エスペランサの構築物はもっとアブストラクトで不安定な浮遊感を求めている。

このアルバムには、もう一枚CDがついていて、これはプリプロ用のリハーサルを録音したもの。タイトルもちゃんとつけられており『Undeveloped』という名前で10曲入りだ。

この『Exposure』はConcordのプレスになっているので、おそらくしばらくしたら、配信されるだろう。Oiidを通して、欲しい人全ての手元に届くことになるのではないかと思う。ただし、『Undeveloped』については無いかもしれない。今回のコンセプトは、企画の段階からすべて見せるということだろう。

もうひとつ思ったのは、今は機械がかなりのことを出来るが、最後の人間の手技の凄さとか時間の蓄積を見せることがキーワードになって来ているということだと思う。

とはいえ、この企画も相当テクノロジーのヴォリュームがある。

『Exposure』 Esperanza Spalding

1.Swimming Toward The Black Dot
2.Public Trance It
3.Heaven in Pennies
4.Colonial Fire
5.Coming to Life
6.Geriment
7.I am telling you
8.The ways you got the love
9.I do
10.Double Jointed Canyon

(文・鈴木りゅうた)

Esperanza Spalding

Oiid

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