和太鼓は現代社会に語りかけるー御木惇史の叩く世界2

繋がる世界の打楽器奏者たち

“和太鼓を叩くことは、素材そのものと向き合うこと”…そんな強烈メッセージを受け取ってしまった前編→(前編はこちら)

後編は現在のドラマー事情と世界のプレイヤーたちについて。
今、楽器奏者で凄まじく進歩しているのがドラマーだろう。和太鼓をセットに組み込み、畳を楽器に見立てて演奏もする御木惇史と考えるドラムの進化。後編はドラムのトレンドと広がる世界をテーマにした。

今例えばボストンのバークリーでは微分音の授業みたいなのが人気があったりするようなんですけれども、和太鼓の話のそういう“チューニングとかじゃない”みたいな話とも通じるものがありますね。なんというか一神教的概念からの逸脱。

「リズムの部分でも、1つのグルーヴでやっていて急に関係ないような音が入ったりすることってあるじゃないですか。その音が前後の文脈とは全然関係ないように聞こえたとしても、もっと大きなカタマリとして聴くとすごくはまっていることってありますよね。

最近のドラマーはすごく技術が進歩していて、いろんなことができる。打ち込みも同じく、音質もすごく良くなってるし、何でもできるようになってる。そこで生身のドラマーとしては、音楽をもっと俯瞰したところで見えるような、“逸脱した何か”に可能性を感じてますね。ずらしたところにあるように聴こえても、細く深くやってきたからこそ、わざと入れてる一打に面白みがあるというか。それは他の楽器も共通してるところだと思いますけど」。

機械のグルーヴという意味ではジョジョ・メイヤーとかクリス・デイブとかは、そういうハイスペックなサンプラーみたいな感じを10年以上前からやってたよね。

一方で、例えば御木さんも敬愛するスティーヴ・ガッドタイプというか、打点がしっかりした、その上でグルーヴィなタイプのドラマーもいますし。ドラムの世界って今は結構な発展がありますよね。

コンピューターでの音楽制作とか機材で作る人が流行りだしてから、確実に変わりましたよね。それによってもっと複雑なビートが組めるようになったから。そのビートを逆に生音で表現することになってきて。そういう元祖的な存在にクエスト・ラブがいると思うんですよね。クエスト・ラブは、今のドラマーの中では、もっとスティーヴ・ガッドに近い。気持ちの良いグルーヴをサンプリングするみたいな感じ。

その後の人たちはもっと複雑なことになってきてますよね。真似るのが2小節のループだったのが、もっと長い単位でのループになっていたりする。それをどう生で表現するかということになっていったんだと思う。それで最近はさらに先に行って“機械にできないことやっちゃおう!”となっている。どんどん分解能が細くなってますよね。昔は16ビートができればよかった。けれども、もう今は32ビート当たり前って感じになってて64を目指してる」。

一方でブライアン・ブレイドみたいな存在もいます。

機械とか、そういう話から、彼を解読すると、彼はもう譜面では書けない世界にいると思うんですよね。もう限りなくスピリットに近づいているというか。分解能の話はまだ譜面にかけるじゃないですか。でもブライアン・ブレイドのプレイは譜面に書けないですよ。それをしてもあまり意味がないですし。情景を描くとか、そういうところに入ってきちゃってるから。そうした方向性の究極ですよね。


そういう意味でドラムは2極化していくんじゃないでしょうかね。これはもう、ドラマーだけではなくて、どんな楽器も音楽もそうなるんじゃないですかね。後は単純に“ドラムってかっこいいよね!”みたいなそういうのもある。演奏技術じゃなくて“ドラマーがかっこいい、ファッショナブルな存在!”みたいな。そういう意味では3極化かもしれませんね」。

なるほど。最近ではどんなドラマーに注目してますか。

最近注目してる分けわかんないドラマーが何人かいるんですよ。とりあえずユセフ・カマール、アンダーソン・パーク、パー・コウの3人。

いるんですよ、わけわかんない人たちが。ユセフ・カマールはバスの中でセッションしているインスタグラムの動画がすごく有名なんですけど。実はYouTubeの再生回数はそれほど多くないです。

このパー・コウはセットがすごくて。このセットでファンクとかレゲエをやるんですよ。歌うし。ガーナの人なんですけど、最初はセッティングに目を引かれて見始めたら、、、聴いてたら“やべえっ、なんだこれ!”って(笑)。

こういうのを見ちゃうと、自分にも可能性を感じるというか。“自分だったらこうやる”みたいな。すごく触発されますよ。ドラムというか太鼓の可能性ですよね」。

音楽は完成するまで待ってたら人生終わってしまうというか完成してなくても出していくことが大事だったりする部分もあるじゃないですか。そこでコミュニケーションが生まれるのかどうかと言うか。なんと言うかこのセット、これはトライして人生を見せてるというか。

そうなんですよ。なんというか人生と繋がってるみたいなところってあると思うんですよね。そういう意味で、このセッティングに彼の人生を感じますよね。


今は冷静に考えたら、何か作ったりするのは難しい時代じゃないですか。経済的なこととか、生活とか考えてたら“それだったら作らなくていい”ということになっちゃう。それこそ“待てばもっとすごいのができるから”といって3年後作るっていうものでもないですし」。

DJやトラックメイカーという視点

人生終わっちゃうもんね。
すごい話変わりますが、実際にDJからの反応はどうですか?

結構“こういうのが好きかな?”っていう人に持っていくと大体、当たります。DJはミュージシャンと違っているところを見ているので反応はちょっと面白いです。トラックメーカーとかは演奏する視点じゃないんですよ。
どう素材として使うかみたいな。なんというか譜面的には捉えてないというか。俯瞰で見ているので意見が面白いんですよ。柔軟性とかセンスとかも評価してくれるから」。

後は和太鼓側の人たちの反応も気になりますね。師匠筋の反応はどうですか?

実はまだあんまり聴かせてなくて(笑)。僕の師匠に聞かせたら“太鼓の音がいいな”と言ってました。それは嬉しかった。僕の次のテーマは自分の欠点をどう活かしていくかっていうところ」。

今も自分自身のセットをより発展させるべく日々考える。
Volcomの”世界を変えるアーティスト”に選ばれオースティンで和太鼓を持って乗り込みパフォーマンスをした。先日は南アフリカから“我々の部族のビートに似ている!”という連絡を受けたという。彼が自らについて問うたからこそ返答を得たのだろう。

世の中わかり合えないこともあるかもしれない、しかし太鼓と向かい合う御木の話を聞いて、果たして自分は“わかり合おうとしたのか?”と考えさせられている。

(文/鈴木りゅうた)

御木惇史「雨と山」7inch Vinyl Record, RELEASE LIVE
■2018.11.9(Fri)

Open 19:30
Start 20:00
■Charge ¥3,000+1Drink Order
■Artist:御木惇史(Dr,Wadaiko,Perc),小林岳五郎(P&Key),柳原旭(Ba),中山貴踏(Tap)
■Where:BACKSTAY Mishuku Tokyo

東京都世田谷区三宿1-4-22 モリオキビルB1
03-6453-2888

リンク:御木惇史 Official Homepage

インタヴュー前編:和太鼓は現代社会に語りかけるー御木惇史の叩く世界1

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