今でも発売前から楽しみな新譜って?
自分自身の音楽ファン歴も長くなり、なんでもかんでも聴いていると、新作を待ち遠しくしくまっているということが少なくなっている。
理由は次々といろんなものがリリースされて「あれもいいよね!これもいいね!。あ、これカッコいい!」とかやっていると“今後のリリース情報”という存在をチェックし忘れるから。
あとチェックしていても、そういえば出るよねくらいのニュアンスになっているから。
とにかくいろんな音楽を聴きたいという熱は過去の作品にも伸びるし、聴くという行為自体も時間が割かれる。「ライヴも観たい、楽器も弾きたい、仕事ももちろんしなければいけない」となってくると先回りしなくても十分に楽しかったりするからだ。
それともう一つあまり待ちかまえなくてもいいやと思う理由は「もう新作出すよ!半年後だよ!」という言葉がいつの間にか3年くらいになってしまったりすることがよくあるとうことをもう頭のすみで覚えてしまっているから。
もちろん楽しみにしてるんだけれど、まだかまだかと待たなくてもリリースされれば聴けるじゃないかという冷静な判断が出来るようになった程度には大人になったから。あと人間、なんでも思い通りに行かないのは自分以外でももちろんそうなんだろうし、そこにヤキモキしたくないというか。多分熱量高めの反動なのかもしれないし、興味関心過多の結果、耐性がついてきているんだと思う。
それでも発売日前日にレコ屋をウロウロする感覚というのを忘れたわけじゃない。むしろ結構ある。そういう中の一つがブライアン・ブレイドのフェロウシップだろう。
音だけじゃなく言葉も染みる男
前作の“Landmarks”も久々だったが、これはなんとブライアンにインタヴューもさせてもらってそれはすごく嬉しかった。
ギターはジェフ・パーカー、そして独特のブルージーな表現でカサンドラ・ウイルソンのバンドなどでも活躍するマーヴィン・スウェル。そして他はいつものメンバー。鍵盤に朋友ジョン・カワード。アルトサックスにマイロン・ウォルデン、テナーはメルヴィン・バトラー、ベースはクリス・トーマスという布陣。
ちょうどウェイン・ショーター・カルテットでの来日のタイミングでもあったのだがその内容の濃い部分はジャズジャパン誌の46号に掲載されているが人物として清廉な人というのがまず全体の印象だった。
とにかく何事も静かによく咀嚼して返答してくれるし、そこに起こるすべてをまずは受け入れている、という感覚がある。彼の参加する作品も含めて全作に共通して言えるのだが、その信頼する感覚が彼の作品にはみなぎっていてその時のインタヴューでも
「お互いの信頼関係や尊重、尊敬はなくてはいけない。それぞれの人たちが何を表現しているのか聞き取ること。それに対して何をリアクションしていけるかということが結果的に作品を作っていく」
と語っていた。またそうした姿勢がどのような作品にも現れていて、しかもそうした相手への信頼は自身が受けている信頼感ともつながって、瞬間に見せる大胆でスケールの大きな表現に間違いなく繋がっている。
その日のインタヴュー後に見たウェイン・ショーターとのライヴではそれがまさに体現されていた。
その前年にジョナサン・ピンソンという若いドラマーが彼の代わりにドラムをそのウェイン・ショーター・カルテットで叩いたのだが、その印象は完全に塗り替えられた。ブレイド曰く「バンド自体がウェインのコンポジション」という言葉通り、音はまるで流れていく河のように変化を繰り返しながらイマジネーションの海へとたどり着く。
インタヴューの時、フェロウシップでは来日予定はないのかと聞くと「フェロウシップ自体があまりライヴの予定がないんだ。残念だけどね(笑)」と静かに笑って答えた。思えばそれ以降も他のところで多数来日があってジョン・パティトゥッチのバンドやムースピールなどクレジットに名前をよく見かけたし、他の活動もあるしで、本当に忙しいのだろう。ただその時点で次の作品も楽しみだなと思っていた。
Body and Shadow
この作品で新たにギターを弾くのはデイブ・デヴァイン。
たゆたうようなギターを被せてきて、例えばサウンド面では今までもバンドに参加してきたギタリストたちと共通する部分も大きい。トレモロの聴いたリバーブ一杯の音作り。2015年からこのバンドのライヴでギターを弾いているのだが、2001年に移り住んだデンバーで活動を続けており、ジャズ、ロックなどをまたいで活動する地域密着型の曲者ギタリストだ。彼自身の作品は彼のウェブサイトにて聴くことも出来るが、スピード感のあるフェロウシップという佇まいもあってなかなか面白いし、こういうところにコネクトしていくブライアン・ブライドのアンテナは開いている男だからこそだろう。
とはいえ作品全体を通すと、大きくギターが全面に出ていた今までの作品とは少し赴きが変わって、ジョン・カワードの鍵盤や2管でのフレーズをもっと大きく陰影をつけて描くという感覚だ。
そしてブライアン・ブレイドが一介の優れたドラマー(世界最高峰のドラマー)ということではなく、一人の偉大な表現者だという感覚は他の諸作同様に共有される。
ドラマーの作品ということでよく期待されるリズミックな陽気なアプローチというのはやはりここでも全くない。もっと全体としての表現に終止している。なんならドラムが入っていない楽曲もある(2、。ただ、ドラムはどの楽曲でも最高のプレイをみせる。なんというか歌っている。
このフェロウシップがブライアン・ブレイドがドラマーであるということを踏まえてリーダーシップをとっていることで有利になっている点もあるのではないかとも思う。それは曲全体のダイナミクスのコントロールというか幅が大きく、それによって描かれる風景の立体感に関しては大きな恩恵を受けているのではないかということだ。
そして今回の作品はいつもの何かゆったりとした幽玄な世界ということは共通しつつも、今までの大きな景色を彷徨うという感覚よりももっと心象風景とか心の内面に潜り込んでいくというような感じを受けた。
短い曲も多いのだがその1曲がとても濃いモチーフになっていて、物語を自然と思い浮かべてしまう。最後に収録されているジョン・カワードによる“Broken Leg Days”はカワードが骨折した時のイメージだ。この曲には不安とこれからについて考える思索の時間という感覚に溢れている。
全体の収録時間は短いが、内容は濃く、またフェローシップが新しい旅に連れて行ってくれるだろう。
もう一つ、最近はフィジカルメディアは配信以上に高音質ということを意識していて、そうしたことが今後どう結実していくのか、ちょっと興味深い、この作品も国内版はSHM-CD仕様となっており、そうしたオーディオ的な部分へもっと広くアプローチ出来るかということは一つの取り組みなのだろう。
高音質盤で再リリース予定のブルーノートのアーカイブなどはすでに所有している諸作も比べると面白い。
Body And Shadow
1.Within Everything (Brian Blade)
2.Body and Shadow (Noon) (Brian Blade)
3.Traveling Mercies (Jon Cowherd)
4.Have Thine Own Way, Lord – Solo (Adelaide A. Pollard, George C. Stebbins)
5.Have Thine Own Way, Lord – Band (Adelaide A. Pollard, George C. Stebbins)
6.Body and Shadow (Morning) (Brian Blade)
7.Duality (Jon Cowherd)
8.Body and Shadow (Night) (Brian Blade)
9.Broken Leg Days (Jon Cowherd)
(文/構成:鈴木りゅうた)
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