日本音響のAGSから砕音について考える

椿山荘の庭園

森で音楽を聴くってなんだ?

椿山荘とヒビノのコラボによるリスニングルーム

「終わった後に聴かされても、、、」という話で大変申し訳ございません。が、2月中に行なわれた椿山荘での企画はとても興味深かった。

ホテル椿山荘東京といえば、文京区の閑静なエリアにある由緒正しいホテルですが、かなり大きめの日本庭園とかもあったりして、都会のオアシス的佇まいと高級感満載な感覚で、結婚披露宴なんかでも人気だし、もちろん宿泊となりゃああれなわけです。

降雪後の椿山荘

その椿山荘が一ヶ月間、音響メーカー大手のHIBINOと組んで音楽ファン向けの企画を行なった。
椿山荘が提供したのはもちろんラグジュアリーなゲストルームとホスピタリティ。
ではHIBINOはこの企画にどんなスペシャルティを投入したのかということなのだが、これがけっこう意外なものだった。

ルームチューニング材、AGS

ヒビノが提供したのはAGSという木材の連なり。日本音響エンジニアリングで開発し国際特許も取得している。
しかし、正直見た目は木の連なりなのである。
この日、説明してくれた日本音響のご担当者は「コンセプトは森です!」と自信ありの風情なのだが、一緒に内覧会に参加した方々も「大丈夫か、これは、、、」という雰囲気。

これがAGS

しかし、これはけっこうな代物だった。

ちなみにこのリスニングルームに用意されているオーディオ装置は以下の通り

プリアンプ :McIntosh C47
パワーアンプ:McIntosh   MC302
スピーカー :ATC          SCM40

さて、価格コムでの最安値総額は¥1723600!

うむ、、、。オーディオファンは大変です。
しかし、実際に最後のところは好みだとしてもしっかりとした再生装置で聴くと、音楽の聴こえ方というのはかなり違うのも事実。

「カッコいい!」と思って聴いていた音楽が、すごく平板で物足りなかったりすることもある。
しかし、それよりも今まで気づかなかった情報量を確認出来るのはメリットでしかない。
よくミュージシャンが「よい音響環境で聴いて欲しい」という発言をするが、それはそれだけ録音時の演奏に密度があったということ。

再生装置で失われる情報もある。

とはいえ一概によい状態の録音物=グッドミュージックでもないから最終的には聴く人に委ねるしか無い。
それでも選択肢を持つということはいいことなんだと思う。

AGSは『Acoustic Grove System』の略称。
実は取組みは1980年代から行なわれていたそう。

基本的には業務用ユースの機材で製品化第一号は2007年に放送局の編集スタジオ。
このシステムを入れることで残響音をコントロールし、音の乱反射を自然にバラすという仕組みだ。
写真の通り、モノはろく木を縦置きしたみたいなやつ。

それで最初は先ほどの再生装置にAGSなしで聴かせてくれたのだった。
音源はカーペンターズ。「うん、いい音だね、、、」という感想。

オーディオ

それ以上どう言えばいいのか(笑)。ただホテルの一室なので、わりと音の返りにまとまりがなく、全体的にフワフワした印象を受けた。

「じゃあこれからちょっと設置しますね」と男性二人掛かりでAGSを計6台、アンプやスピーカーの背面にずらっと設置した。

AGSを設置

同じ音源を再生すると、、、、、

柔らかく立体感溢れる音場を作り出すAGS

演奏者の定位が急にしっかりと出てきた!

思わず身を乗り出してしまったが、音が引き締まり、ザワザワとした印象がいきなりなくなったのだった。

その次に再生されたのはキース・ジャレットのトリオ。

驚いたのはウッドベースの弦の振動が見えるようなリアリティ。
ゲイリー・ピーコックの押弦やピチカートのタイミングが詳細に見えてくるようだった。
そしてもう一つはシンバル。デジョネットがスティックで擦る軌跡とどんな感じに擦ったのかわかったような気がした。

その後、「CDを持ってきてくださいね」と言われていたので、4枚ほど持っていって、年代ごとにいくつか聴いたが、ホーンやシンバルなど金属が振動するもののリアリティというか立体感が半端じゃなかった。
ジョシュア・レッドマンが録音の時、マイクからどれくらいの距離にいたのかわかったかもしれない。

変更後

これは音楽好きなら興奮するわ!

「ただの木の連なりなんて言ってスイマセン!」としか言いようが無い。
高級オーディオの高級リスニングルームなど持てない環境でもちょっと夢があるシステム。

砕音という感覚

「吸音という考え方があります。これは音を吸って反響を抑える仕組みです。でも自然な残響はなくなり、音はクリアでも聴きにくくなることがあります。AGSは音を細かく砕いて、響きを自然にする。砕音という考え方ですね」と日本音響エンジニアリングの方が。

木の材を変えるともちろん効果も変わるということだが、いろいろな問題があり、材質についてはうたっていない。

強度やソリなどの問題もあるからそこまで踏み込んで商品化するのは難しいことだろう。

この話を友人にしたら「なるほど。マッセンバーグのスタジオもそんな感じだったな」と写真を送ってくれた。

レコーディングエンジニアの友人も「場所によって止めちゃ行けない反響もありますから。それは理にかなっていますね」とのこと。

オーディオ3.0なるか

さて、昨今のオーディオの人気のあるポイントといえばヘッドフォン、そしてハイレゾから配信などまでの多様なフォーマット。
ちょっとマニアックな市場を形成しつつ、それでもピンキリな状況だ。

AGSってろく木?

ワンルームではオーディオにかける金額というより設備に影響が出ている印象もあるがより良い音で聴こう、とか聴かせようという取り組みにおいてはあくなきチャレンジが進んでいる。

今後、たとえば今回の椿山荘が仕掛けたハイオーディオなどの企画は「普段はヘッドフォン、たまには高級オーディオ」というメリハリの効いた企画で、実は可能性があるかもしれない。
カラオケルームならぬ、オーディオルーム的な。

たとえば音楽のある環境ではクラブやジャズ喫茶などがある。
こういうのは楽しいが衆人環視のもと、リラックスして音楽を聴けるだろうかという課題が残る。
録音物になった時点で音楽はかなりパーソナルなものとして消費される運命があるから。
そういう意味ではこういった企画は今後も期待できる。

もしかしたら、ハイオーディオにもまだまだ復活の道があるかもしれないし、こうした使い分けがポータブルから進化したオーディオの新次元になりうるのかもしれない。

空き家問題も活発になっていきそうなところで、一人で所有するのではなく、共有するということもこれからの時代ぽさを感じる。

そしてヒビノと椿山荘。
なかなか面白い企画を組んだなと超ビッグネームに対して最後は上目線で締めておきたい(笑)。

(文/写真:鈴木りゅうた)

椿山荘東京

ヒビノ株式会社ー日本音響エンジニアリング

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