類家心平“RS5pb” vol.1 

“熱く凍える”RS5pb

類家心平は音楽への探究心溢れるトランぺッターだ。彼自身は日頃から多くを語るタイプではない。それを補うようにトランペットを吹いてきた。2019年もほぼ毎日、誰かの前でトランペットを演奏し、音楽へ向き合っている。

2020年の4月。“今は外出を控える”というのが可能であれば行なう時期になった。それならと3/25にリリースされた彼のバンドRS5pbによる『RS5pb』の紹介も兼ねたインタヴューをおこなった。

彼の新作は持ち前の探究心と前進を求めている。「少しずつアバンギャルドな方向に行っている」と語る言葉はそれを象徴している。あえて話は追悼の意味も込めて21世紀のジャズシーンの方向性を示したともいえるロイ・ハーブローグの話から始めた。ここで類家心平について改めて興味を持って頂き、熱気と冷気の交錯するRS5pbの最新作に興味を持って頂ければ幸いである。

ロイ・ハーグローブと21世紀のトランペット

■そういえば、ロイ・ハーグローブが2018年に亡くなって。しばらく立ちましたけど、彼は21世紀に入ってジャズがおおらかになっていく傾向を現代にもたらした功労者だと思ってて。当時はジャムバンドも流行っていたのも要因にありましたけど。ジャズに対する印象も含めて我々の世代以降だと彼の影響は結構大きい。

「そうだよね。トランペットの演奏スタイルもロイ以前と以降で変わってるし。ロイは音楽のスタイルも作ったし、ファッションや立ち振る舞いもそう。それだけじゃなくて演奏者としてトランペットのフレージングとか吹き方とかそういうことも結構変えた人なんじゃないかな。演奏とか吹き方に大きく影響受けた人は多い。

影響はジャズだけに限らなくて、R&Bやヒップホップなんかにもハマるようなフレーズのスタイルはロイ以降ですごく変わったと思うんですよね。トランペットに演奏に影響を与えた人はそれ以前にもいます。たとえばフレディ・ハバードとか、それ以前だとマイルス・デイビスとか。フレディーはすごくエモーショナルで、熱い感じで吹くタイプ。ロイもエモーショナルだけど、それをセンスよくこなしていく感じがあります。2000年代初めにRHファクターは日本でもかなりヒットしたというか受けましたよね」。

■ロイも含まれますけど、管楽器ではトランぺッターはサックスなんかと比べると音色面で電気的にいろいろ試す傾向にあるように思います。そこにはトランぺッター的に何か背景とかあるのかなって。

「ひとつにはサックスは新しい楽器だから音色を試す前にテクニカルな面でいろいろなことがやりやすい部分があると思うんですよ。クラリネットの指遣いから進化して運指しやすくなっているし。フレーズがいろいろできるとあまり音色を大胆に変えようとはなりにくいところがあるのかもしれない。

それと比べるとトランペットはスタミナや音域の問題があって、そのあたりの幅が狭いという弱点もある。そうなると音色の質そのものを根本的に突き詰める人も出てきますよね。もうひとつはエフェクターがかかりやすいのもあります。音が出る穴も1つしかない。サックスはいろんなところに穴が空いてるから音が散ってしまうのでエフェクターがかけづらい。こういうことも大きな現象としてあるのかもしれません。

トランペットの音色的な難しさ

ロックフュージョン以降の音楽やR&Bではサックスは生でそのままの音色で乗っかれる部分があるんですよね。でも、トランペットは意外とはまりづらかったりするんです。トランペットは扱いづらい倍音が多いのかもしれない。だから例えばマイルスなんかはミュートをつけて自分の音を鋭くしたりしてますよね。マイルスはワウを表舞台で初めて使った人でもあるけれど、そこはサウンド的に柔らかすぎるとか混ざらないことを考えたのかも知れませんね。そういうことも含めてトランペットの方がエレクトロニクスに対して積極的なのかなと思います。サックスの場合はそれがなくてもそのままでサウンドとしてフィットするから。実際ロイもRHファクターなんかではエフェクトをいっぱい使っていますよね。

今の人は結構使い分けてる印象がありますね。例えばテオ・クロッカーはすごくロイ・ハーグローブからの影響がにじみ出てますけど、ライブだとわりと生でそのまま吹いています。でも録音では結構使ってますし。作品を作るときに音色の一部として加工するのは最近は割と普通ですからね。アヴィシャイ・コーエンなんかもそうですよね。あの人はいろいろなプロジェクトに参加してるから普通にオーセンティックなジャズをやっている時もあるし」。

■類家君もエフェクトを使ってるよね。どんなエフェクトを使ってる?

「このレコーディングではワウと、オクターバー。あとデジタルディレイを少し。オクターバーは低音を足したりしてます。」

■作品内ではけっこう違和感なく使われてる感じがします。自然というか、そんなに使ってないような印象さえあった。

「実際には頭の中にある音のイメージが現代の人は変わってきていますよね。演奏者も普通に生で演奏するだけではなく、音楽的なところでエフェクトがかかった音がイメージにある。エフェクターは音色とか余韻を楽しまないとあまりかけてる意味がなくなるんですよね。だから楽器的にテクニカルな人だとたくさん吹いて、あまりエフェクトの意味がないってこともあるし。マイルスはスタイルがああいう感じだから、そういう人の方がエフェクトは向いてる感じがします。

とはいえ使うエフェクトの種類によるとも思いますけどね。特に空間系のエフェクターはシンプルなフレーズの方がスタイル的にもあうし。エンベロープフィルターみたいなものであれば早く吹いてもいいのかもしれないですけど。

最終的にはイメージが大切

でも最終的にはエフェクトは関係なく、鳴ってる音自体を楽しめないと生きてこないのかな。エフェクターを持ち込んでただ新しい機材を使いたいだけになるとあまり良くない(笑)。やっぱり何事も必然性がないとダメ。たとえば“このサウンドだと今やってる曲に合わない”となるから音色を変える必然性があるわけで。例えばマイルスであれば、あれだけ周りの音が爆音だと自分の音が埋もれるからとか理由があったと思いますね。もちろん新しいものが出てきたから使いたいというのはあるだろうけれど、必然性もあったと思うんですよね」。

2013年から始まるRS5pb

■類家君のバンドは昔はギターはいなくて、ずっと4人でやってましたよね。これはいつ頃から?

「この編成は2013年からだから7~8年ぐらいやってる。最初は4人で割とアコースティックな感じでやってて。ピアノもハクエイ・キムだったし。実は今の5人になったきっかけは青森の南郷ジャズフェスティバルからのオファー。それで俺がどうしてもそのフェスに出たいがために(笑)。ちょうどハクちゃんがメジャーから出てスケジュールが合わなくなって。当然、彼は自分の音楽やったほうがいいとも思ってたし、そのタイミングでメンバーが変わってから7~8年やってます。錠二(中嶋錠二/ピアノ)は、その頃、知り合ったばっかりで“いいなぁ。一緒にやりたいな”と思って、それで声をかけて。

そのタイミングで確かクリスチャン・スコットのバンドでワンホーンにギターの編成でやってるのを見て、フロントを2人にするよりギターのほうがもっと幅が広がるんじゃないかなぁと。ギターだとメロディーの演奏もできるし、もっとエフェクティブなこともできる。和音も行ける。田中タクさんとは前々からバンドやりたいなも思ってたし、そういうタイミングでしたね」。

■自分はこの編成の最初の頃から観てますけど、最初はトランペット、ピアノ、ベース、ドラムの4人編成にギターが加わった印象でした。その頃から田中タクさんの役割や立ち位置は変わってなくて、バンド内では前線も守備もする感じ。全体的にはアコースティックでオーセンティックな感じのサウンドに重なるエレクトリックギターの異物感があってそれが面白かった。タクさんのギターはジャズだけでなくハードロックとかスラッシュメタル的な要素も思い切って持ち込んでて。


■現行メンバーによる最初期のヴェルベットサンで行われたライブレコーディング

でも前作の『UNDA』をリリースする少し前ぐらいから、少しずつ他の楽器もキレもよく、暴れ出してる感じになってきましたよね。

「そうだね。そういうところもバンドの個性になってきた部分もあって。崩壊的な感じになってきてる。そういうところは曲を作る上でもそうなのかもしれないし。まぁ普通にやっててもしょうがないと思うところもあるし(笑)。ジャズをオーセンティックにやるのは、そういう人に任せればいいかなというのもあるし。結果的にどこにも引っかからないというか、どこに行ってもアウェイ(笑)。どこにもはまらない立ち位置になってる感じがする。

でも、そのほうがいいというのは自分の中にもあって。あと自分的にはいろんなバンドでやらせてもらってるなかでも菊地成孔さんのバンドの影響もありますね。ダブセクステットがあって、DCPRGがあって…言うならその2つのバンドの要素もある。そこに自分の色を出していくとこういう感じになると、言えないこともない」。

ジャズの人がロックなアプローチをすると複雑になりやすい

■そのうえでもメタルやハードコアパンク的な要素はより強くなってますよね。メタルとか普段は聴くことはあるの?

「実際にメタルが特に好きという事は無いんです。でもジャズの人がロックっぽいアプローチに行くとより複雑になっていく。そうなると必然的にメタルになっていくというか。だから、メタルを目指してるわけではない。でもロック色やグルーヴのあるものをジャズの中に消化していくと、ロックから入ってきた人よりは複雑なものになって、それがメタルっぽくなっているということに気づきました」。

■自分は結果的には80年代とか90年代のロフトジャズっぽいテイストもすごく感じてます。好きでけっこう聴いてましたけど、あの辺りの音楽は商業的には全然成功してなくて、あまり理解されてないところもある。すごくもったいないなぁと思ってるんですよ。

「かっこいいよね。ジョン・ゾーンのNaked Cityみたいな感じとかは俺もやりたいと思ってて、そういう意味でもギターは必要不可欠。実際にはNaked Cityはものすごいハードコアじゃないですか。あのテイストは大好きですけどもうちょっとまろやかでもいいとは思ってます。
ジャズとかインプロビゼーションの要素はどんどん盛り込んでいきたい。フリージャズも好きだし、なんていうかエネルギーを聴かせる側面があるものもすごく好きだから。あと、爆音だけでなくてすごくサイレントなものも好き。例えばニルス・ペッター・モルブルなんかも大好きだし。でも静かだからエネルギーがないというわけでもないし。なんであれ、エネルギーを感じられるものがやりたいのはある」。

■ギターがガンガンと鳴ってる曲の印象は目立ちますけど、実はロマンティシズム溢れる雰囲気も特徴になってますよね。例えばストリングスを入れた” IO”とか。

「そうそうそう(笑)。ストリングスのアレンジはベースの鉄井さんが書いてくれたんだけど、ストリングスを入れたいなと思って作った曲だったのでそれは割とうまくいったかな」。

RS5pbのサウンドを通して聴くと、類家心平のトランペットを中心にピアノの中嶋錠二、ベースの鉄井孝司、ドラムの吉岡大輔、ギターの田中”TAK”拓也の5人のセンシティブに楽曲に向き合う姿勢が反映されている。表現に対しての従順な姿勢が反映され、より独特でありながら、トラディッショナルな感覚がある。まるで基礎のしっかり構築されたポストモダンの建築物のようである。

録音、そして音楽をとりまく環境について語るVol.2へ続く

(取材/文:鈴木りゅうた)

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