アダム・ロジャースという男

一部の人間が驚愕する男!その名はアダム・ロジャース!!

実力に比して、そのジャンルの人以外知らないような人がいる。音楽の世界はそういった実力者が多い。

2002年に約一年ニューヨークに滞在したとき、「これは大変なやつがいる!!」と驚愕した一人が名ギタリストのアダム・ロジャースだ。

コーネリアストリートカフェというちょっとだけわかりづらいような場所にある地下のバーで見たのが最初だったと記憶している。その日はまず今はもうないローワーイーストサイドのTonicに行ったらサーストン・ムーアが壊れた洗濯機のようなノイズのライヴをやっていて、ちょっと気分じゃないなと移動して観に行ったのだった。

そうしたら今もニューヨークで活動していて東京から当時来たばかりのドラマーM君がいて、もうガン見していた。見始めたら自分も気づけばガン見していた。

ナチュラルボディのGibson ES335をヘッドを低くして構えていて独特のフォーム。出てくる音の粒立ちの良さとフレーズの飛び具合。それは規則性はかんじるのだが、ガンガン跳躍力のあるフレーズが自然に紡ぎだされる。ジャズ度は高いけれどそれに収まりきらない音楽性も魅力的で、ギターをまさに支配下に置いていた。

「曲も独特のグルーヴ感があって何か新しい音楽をやっている、それも自然にやってる、なんなんだこの自然な感じは、、、、、」と思った。

当時、アダムのリーダーアルバムがオランダのCrissCrossレーベルでのリリース直後だったのでそのライブでも手売りしていた。本人から即購入。

その時、いくつか質問したようにも思う。とにかく手首の角度。弦に対してほぼ直角にピックを当てる逆アングル、そして右手の指もよく使う。さらに正確無比なリズム、一聴して難しいヴォイシングが自然にハマっていくコンピング。これは化け物じみていると思った。

当時はアダム・ロジャースの情報はそんなになくてマイケル・ブレッカーのサポートでやってるギタリストぐらいの認識しかなかった。その時は覚えてなかったのだがLost Tribeにも参加していて、Lost Tribeも聴いていたので、アダムのギター演奏自体は既に聴いていた。だがそのライブでは全然結びつかなかった。単純に“何かすごいものを見てしまった”と思った。

その時、アダムと話をしてたら、当時彼がやっていたドリームズカムトゥルーのサポートで「日本よく行くよ」と言ってた。それもまた結びつかなかった。だが確かに帰国後に見た音楽番組とかで実際にアダムを見た。当時のドリカムのライヴ動画にも映っている。


90年代後半のジャズとアダム・ロジャース

2002年当時は自分はもっとプレイヤー志向で、ニューヨークはそういう意味での修行として渡った。90年代中頃からニューヨーク界隈から出てくる音楽がやけに面白かった。それはスクリーミング・ヘッドレス・トーソスもそうだし、ビル・フリゼールもその90年代半ばはまだニューヨークにいたり、やばい音楽はニューヨークからという感じに思えた。

それでそうこうしているうちにメデスキ・マーティン&ウッドやソウライヴやらをジャムバンドシーンみたいな切り口で音楽ライターの松永さんが紹介し始めた。これはもう行ってみるしか無いと脱サラして旅立ったのだった。

その中ではアダム・ロジャースはもっとジャズのフィールドに軸足を置いていた印象だった。だが初遭遇後、もっと捉えどころのないミュージシャンのつながりみたいなものを感じた。

その後にライブを見に行くとアダムによく遭遇するのだが、それがまた節操無くいろんなところに出ていて正体がわかりずらい。ドン・バイロンのオーケストラにも参加していたり、マシュー・ギャリソンと近未来フュージョンぽいのをやっていたり。

落ち着いてCDのクレジットを見るといろんなところにその名がある。

ファンキーなカッティングからポップス、クラシック…もうなんでもできるんじゃんこの人、みたいな認識にどんどんなった。

一つのスタイルを磨いて一点突破じゃなくて、ギターのいろんな面を多角的に表現出来るギタリスト。これはもう敵わないなと思いつつ、ギターとか音楽とか、改めて面白いなとも思ったのだった。

ライヴも見たインパクトから実は最初のソロアルバムはとても物足りなかった。ギターのうまさはわかるし、作品は全然悪くない。でも「あなた、この程度じゃないでしょ?」という気持ちがどうしても消えないのだった。

この『Art of invisible』では“long Ago Far Away”をオープニングにスタンダードもオリジナルも入っていて、とても浮遊感のある作品になっている。

メンバーはライヴで見た時にアルトサックスを吹いていたLost Tribr時代からの朋友デヴィッド・ビニーは録音には不参加。エドワード・サイモンが鍵盤、ベースはスコット・コリー、そしてドラムはライヴで叩いていた当時まだまだ若手のダン・ウェイスではなくて録音はクラレンス・ペンだった。

その後、クリス・ポッターを加えて『Allegory』『Apparitions』をリリースした。さらにはトリオでも2作品出していて、計5作のCriss Crossからのソロ名義でのリリースがある。まあどれもこれもこのレーベルぽいある程度現代的なハードバップぽい作品だった。このレーベルからは多方面に広がる彼のセンスは見ることは難しいんだなと思った。

このCriss Cross諸作でのアダムしかしらない人はぜひLost Tribeも聴いてみて欲しい。

3枚のアルバムがあり、最初の作品は故ウォルター・ベッカーのプロデュースで2ndアルバムの『soulfish』までデビッド・ギルモアとのツインギターによるカッコいいリフ満載のゴッタ煮アダムを聴くことが出来る。

使用ギターも恐らくソリッドボディのストラトとかそういう音。3枚目の『Many Life Time』はギルモアが抜けかなり現代的なジャズの雰囲気になっている。使用機材は全く変えてあるようでアーミングやチョーキングなどもよく使われている。

弦について本人に聞いたことがあるのだが「白い335には一弦は013。もっと太くてもいいけど。でも楽器によって変えてるよ」と言っていた。彼のウエブの機材ページに所有機材を一部記載しているが、アンプもエフェクターも含めて、本当にいろいろ持っている。「音楽のスタイルによって機材は変える」というのが彼の方針だ。

またクラシックギターは大学時代はみっちりやっていたそうで、ギターのフォームによく出ている。ネックの掴み方はクラシックギター的な親指の位置取りをする。多方面に広がる膨大なディスコグラフィーは追いかけることが困難だが、彼のガットギターはソロアルバムなどでも聴くことが出来る。


Dice

もっといろいろな側面を聴きたいなと常々思っていたが、アダム・ロジャースの最新作となる『Dice』が今年の7月にリリースされ一つそれが更新された。

ソリッドボディのギターを中心にした自己名義の作品は初めての作品になる。

ドラムにネイト・スミス、ベースはLost Tribeからの朋友フィマ・エフロンと編成もトリオ。

シンセやキーボードをアダム自らダビングしている。マスタリングにベースとドラムの恐るべき両刀使い、Knee Bodyのネイト・ウッドの名前も見られる。

L the Bruce from Adam Rogers on Vimeo.

内容はエレクトリックギターの魅力満載、不思議リフ満載、チョーキング、往ってるソロ、分厚いアンサンブル、エフェクティヴで、いままでのCriss Cross諸作の行儀正しい作品とは違う。

ただし、どこかに端正な側面も残している感覚があると思う。

『Dice』から聴こえてくる音楽は演奏者によってコントロールされていて、そのどこかマッスルな感覚がカッコいい。

まるでギターが脳みそから生えてるみたいな感覚。そこから紡ぎだされるフレーズ。聞いてるとギターと一体感を出すギタリストはそれなりにいるのだが、あくまで冷静に捻っていく感覚がかっこいい。クールなのがアダム・ロジャースの魅力だ。

ジョン・パティトゥッチのバンドで来日した時、他のプレイヤーが魅力的なプレイをするとニヒルにニヤリと笑うのがまた彼のキャラっぽくてかっこいいのだった。ただし、あくまでも彼はなぜか怖い顔していた(笑)。

Diceは2011年頃から始めたプロジェクトでマイク・スターンなんかもレギュラーで出ているグリニッジ・ヴィレッジの小さな箱55Barでギグを重ねていたとのこと。ここは意外にギタリストが当時からチェックしに来ていて、マイク・スターンを観に行ったらアダムも普通に観に来ていた。ニューヨークっぽい感じ。

Diceはとてもゴッタ煮ギターアルバムでカッコいいのだが、もっとジャズギター感ブレンドした奴も聴きたい。これは単純にリスナーのわがままだろう。

(文:鈴木りゅうた)

関連リンク:Adam Rogers

 

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