思わぬバンドの一体感
カート・ローゼンウインケルは昨年の夏にもトリオでツアーに来たし、その前の秋には豪雨の中で東京Jazzの野外ステージでクリニックをやるということで見に行ったりと日本でも幾度となく見ている。
とにかく会場は毎回ギターファンが多い印象で、すごく熱心な感じのファンが多く、カートの一挙手一投足を見逃すまいと真剣そのものだ。
東京ジャズのクリニックは実はもともと取材として入ったので豪雨の中、途中退席も出来ず、本当にひどい雨の中を合羽を来て観客の中に混ざった。とにかく整理番号を貰う前から大雨で、とくに屋根もないところで配られたのでその時点でほぼびしょ濡れの人多数。
クリニック中にも激しく降ったがそれで傘をさしながら必死にメモを取る人もいて楽器をやる人の真剣さ、熱量は改めてすごいなと思った。
その時は編集のSさんもずぶ濡れで写真を取っていたが企画が飛んでしまったのは残念だった。とはいえすごく印象深い取材だった。屋根のあるステージでカートが「みんな大変だね。僕は雨は好きだよ(笑)。」という微妙な社交辞令がなんか彼らしい気がした。
今回、私が観に行ったのは4/15のブルーノート東京1stショー。
この日はギターファンというよりはいつもより年齢層高めな気配で客席は一杯一杯。だいたいオンタイムでペドロ・マルティンズのギターによるイントロからライヴは始まった。
1曲目の”Caipi”からこれはカートのリーダー名義のジャズライヴではなくて何かバンドのライヴに来た感じがした。
必要以上にソロがない。
もちろん主役のカートも含めて”調子がいいからソロの小節数が倍になる”なんてこともなかった。
ただ音楽としての完成度は非常に高く、聴いているとフワフワといい気持ちになれる。
とにかくドラマー以外は全員で歌うのだが、みなまっすぐに歌う感じで声質も柔らかく力みがない。
ピアノを弾いたオリヴィア・トルンマー、ベースのフレデリコ・オリオドロ、そしてマルチミュージシャンのアントニオ・ロウレイロはパーカッションでの参加だが、みな歌が気持ちのいいミュージシャンで、カートも積極的に歌っていた。
また楽器プラス声という効果なのか、みなプレイに無駄がなく、楽曲の方向性やメロディをより強くしているようで複雑なアレンジをこなすということではなく、小さなアンサンブルの機微を全体を意識して合わせていく感覚なのだろう。
楽曲のふわふわした無国籍感もいい方向に働いていてどんどん夢見心地にさせる内容だった。
またドラムのビル・キャンベルがシンプルにいいリズムを叩き出していてバンド全体のダイナミクスをコントロールしていて盛り上がる箇所ではしっかりと盛り上がるので飽きずにあっという間のライヴだなという印象だった。
カートのギターはここ数年日本のブランド『westville』を使用している。
以前、Epihoneのdotなどを使用していたが、あまりギターのセッティングなどに頓着しないのか、ハイフレットが音切れしていたり、サウンドのバランスがそんなに良くなくても、デットフレットも気にしない感じがワイルドで、まあそこも魅力だったのだが、ここ数年、プレイがマイルドになっている気がしていて、そこは楽器由来なのではないかと思った。
とにかくどこのポジションに行ってもきれいに音が鳴っている印象だった。
一方でコンプでアタックをつぶしたサウンドなども使っているのでそうした多様な音色にも対応していていいギターなんだろうなと思った。今回はブリッジあたりをピッキングしてよく使っていた。
もう一人のペドロ・マルティンズもかなりギターを弾いていてビザールギターでソロを流暢に弾いていたりした。もともとペドロはカートの影響が大きく、ソロで弾いたプレイが相当似通っていた。実際、彼のソロ名義の作品はコンテンポラリーなジャズギターをフィーチャーした作品だ。
日本人でもそうだが、カミラ・メザやリカルド・グリーリなどチリ人やブラジル人への影響も大きく、ギターミュージックが割と幅をきかせているラテンアメリカにもカート・ローゼンウインケルの影響は大きいところを改めて考えさせられた。
今回、カートは自主レーベルとしてHeartCore レーベルを設立し、初めてLPでのリリースも行った。この日はステージに持ち込んで嬉しそうに宣伝していたのも印象的だった。ステージの内容も明るく、リラックスして演奏が楽しい、という雰囲気は彼の変化を大きく感じるステージだった。
文・写真:鈴木りゅうた
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