Children of the Light in Tokyo

最高峰の名手揃う

2014年にウェイン・ショーターが『Without a net』をリリースした。確かリリースは2月くらいだったと思うがそのインパクトは相当なものだった。80代に突入したサクソフォニストが記録としての残す、スポンティニアスで美しさと破壊力に満ちた内容。彼の信仰がどうとかそうしたことも関係なく圧倒された。

この録音のメンバーはもうかなり長く演奏をともにしている。流体物質のような演奏をこのバンドはする。

ピアノにダニーロ・ペレス、ベースにジョン・パティトゥッチ、ドラムにブライアン・ブレイドと、当時の中堅、若手のトップミュージシャンを起用したこのカルテットは2000年くらいに出たライヴアルバムがすでにけっこうなインパクトだったし、当時も十分に話題になっていた。そのメンバーがそのままさらに強くなっており、自在に融けたり固形化したりしているような、そんな印象だ。

その『Without A Net』のリリース後、ウェインは2回カルテットで来日している。幸運にもそのライヴを両方見ている。2年連続でだ。

渋谷で行なわれたホールで見ることをコンセプトにしたジャズイベントに2年連続で呼ばれたのだ。

その内の一回はドラムはブレイドのスケジュールによりジョナサン・ピンソンという当時23歳の新鋭が努めた。ジョナサン・ピンソンはカマシ・ワシントンの『Heaven & Earth』にも参加している。渋谷のヒカリエはオープンしたばかりでそのホールに登場したカルテットは、あまりに自由自在で、ダニーロ・ペレスが暴れん坊ぶりを発揮。パティトゥッチもいつものどこかの大学教授みたいな雰囲気を薄めて、ダニーロに負けずガンガン攻め立てる。ウェインはもはや楽器を持つところからがすでに演奏のようで、それを見てバンドが反応するという風情。

ジョナサン・ピンソンは目一杯踏み込み、急ブレーキを踏み精一杯の運転を試みるがもはや掴まっているのがやっとという風情。けっして悪いドラマーでも、実力不足でもない、ただ相手が悪いという感じで、全開でも追いつけない。その風情が余計にパティトゥッチやペレスの危なさというかミュージシャンとしての出来上がりを感じさせた。

翌年、またこのカルテットが来日。ドラムは満を持してブライアン・ブレイドが登場。この時、幸運にもリリースしたばかりのブライアン・ブレイド・フェローシップについてのインタヴューをさせてもらった。

ブライアンはもの静かでピースフルな人物だ。ドラムで時折見せるかんしゃくが爆発したような音のイメージはない。火種は内に秘めて、普段は森に住み爽やかな風の音を聞きながらゆっくりコーヒーでも飲んでいるような男だ。

「このバンドでやるのは未だにとても緊張感がある。最初にウェインから連絡が来た時はものすごくナーバスになった」。百戦錬磨のドラマーでも、いや音楽に真摯な彼だからこその言葉かもしれない。“そのわりにはものすごく解き放たれている”というような旨について質問すると「もう長い間このメンバーでやっているからより信頼して音楽が出来る。音楽は信頼とチャレンジ。一緒にやるメンバーを信頼するからこそ、自分もよりよい音楽を奏でられるようにチャレンジしなければいけない」と語っていた。深く即興性が関わっている音楽であれば、より解放されることが重要になってくるし解放の仕方にも音楽的な信頼関係が関わっている。こうした姿勢でやっているからこそブレイドのドラムはいつも表情豊かでその音楽を充実させるのだろう。

トリオの名前は”光の子供たち”

その後、ウェイン・ショーターなしのピアノトリオでもライヴをしている様子が伝わってきた。どうやらレコーディングもするらしいと。

それで出たのが『Children of the light』。ダサイ。名前がちょっと恥ずかしい(笑)。

逆に闇だよ(笑)。

しかし、このネーミングで貫ける強さがこのトリオにはある。

そして、その音にはこの名前に対して納得させる内容がついてきている。

音楽としてはダニーロ・ペレスのスペースが広がり、パティトゥッチはエレベも弾き、ウエイン・ショーター・カルテットよりは、もっと親しみやすく、その分、狂気は薄く、という音楽。十分に柔軟で、アンサンブルの面白さや瞬発力はある。

ウェイン・ショーターのミステリアスでホラーな感覚を抜き、エネルギーの循環と3人のソングライティングとダイナミクスがコンセプトになっている。

ダニーロ・ペレスは初のブルーノート東京って意外。ほんとに?

この5月の東京にこのトリオが登場するという。観たいという人は多かったが、こうしたライヴはなにぶん日程勝負。涙を飲んだ人は周りに数多くいたが、スケジュールをコントロールしてラッキーなことに見に行けたのだった。

それで、もう入場したら前しか空いて無くて、ブライアン・ブレイドのドラムセットから120センチくらいの席で観ることに。

ブライアンのドラムセット

彼のライヴは幾度と無く観ているがそのドラムをここまで至近でみたことはない。

流石の満員のこの日、3人とも友達のパーティへやってきたように自然と楽器のところへ。

「実はブルーノート東京は初めて」というダニーロ・ペレスも最初からノリノリ。

このトリオでは先頭を走る勢い余った次男坊というところか。右手と左手がバラバラに、ウネウネといくのかと思ったら、バンバンとパーカッシヴに勢いをつけたりする。全面に和音とメロディを散らばせていたかと思えば他の2人にちょっかいを出したり。

そしてジョン・パティトゥッチは友達のギャグを盛上げる“あいついると面白いから呼ぼうぜ”と呼ばれるタイプだ。演奏での反応の良さ、合いの手のように入れるフィルのタイミングの良さ、揃えるところはしっかり行く協調性の高さ、ツッコミ。そうしたプレイを端正なピッチでやるのだから、聴いてるほうも、安心して聴ける。演奏するほうは心置きなく暴れられるというもんだ。そしてこれが優等生じゃなくて、イタズラも大好きといった風情で一緒に悪ノリしたりする。

なぜか出かいリュックをしょって現れたが、登場してすぐに音楽に入り込む。
和やかだがあの集中力はすごい。

世界最高峰のドラマーの一人であるブライアン・ブレイドはこのトリオでは三男坊だろう。普段はおとなしく、繊細で読書が趣味みたいなタイプだ。文脈をとにかく読む。しかし、テンションが上がれば果てしなく盛り上がる。彼のプレイの何が人を惹き付けるのか考えてみたが、この物語を語る姿勢かもしれない。その語り口はあくまで誠実で、盛り上がれば雄弁に説得力あふれる音を詩的に紡ぎだす。

この日はオリジナルやモンク、そしてフェローシップの楽曲が演奏されたが、何倍にも彼ら風の景色でふくれあがった音楽は曲間での緊張から解放された大きなため息とその何倍にもなってふくれる喝采がこのトリオの集中力と凄さを物語っていたと思う。

ブライアンのボディコントロールについて

そして、この日は指先までブライアンの演奏が見えたのだが、あのダイナミクスの秘密は尋常ではないボディコントロールが表現したいヴィジョンと繋がっているからこそ可能なおではないかと思った。

じっと見ていると指の関節から腰の回転までをものすごく細かい段階までコントロールしているのではないかと思った。指の第一関節からの可動域を繊細にコントロールしている。首以外には無理に力が入っていない。

ただ、あんなに普通のストロークで指のニュアンスを感じるドラマーはいない気がする。

先日みた名手アリ・ホーニッグも指の力は抜けていてピュッと掴んでいるだけのイメージで指の要素は感じなかった。

もっとも本当にそうなのかはわからない。このあたりの見解はドラマー諸氏にあった時に聞いてみたいのでお付き合いいただけますと幸いです。

(文・写真/鈴木りゅうた)

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