解放のその先へ〜柴山哲郎インタヴューVol.3

「最終的に自分の音楽だったらいろんなエッセンスがあっていい」

『エレクトリック』を含め、音楽活動については「無理にやらない」としている柴山。
とことんのめり込む彼がここでいう“無理に”というのは精神的にやりたくないことを義務的にやらないということ。

「僕もウードをトルコのスタイルそのままでやろうと思ってましたけど、全然だめでしたね。同じようにやろうと思えば、メチャメチャ練習すればできる。でもそれは意味あるのかなと思います。それはトルコ人がやればいいじゃないですか。僕がやるとしたらトルコ人の音楽を吸収しつつ自分の音楽をやることが大事。

無理にブラックミュージックを取り入れなくてもいい。今、流行ってる音楽を聴くと俺も“ちょっとかっこいいからいいかな?”とか思いますけどね(笑)。いろんなエッセンスがあっていいんじゃないですかね。最終的に人生かけて完成すればいい」。

自分の音楽をどうするかという葛藤

「最終的にはやりたいようにやること。人の真似にならないようにとはすごく考えてます。それだけは海外の人もすごく言うじゃないですか。日本ではみんなある程度、同じように弾きますよね。いろいろ言う人も多いのでみんなセンシティブになってるのかもしれません。

でも、僕はあくまで自分のやりたいようにやるのがスタート。だから今回はとりあえずのスタート作品です。自分の音楽をどうしようかという葛藤はメチャメチャあります。嫌なんですけどこういう葛藤は一生続くんじゃないかな。でもできるだけ楽しくやりたい」。

ギターに対して思い詰めて突然辞めてしまい、その後、ウードを数年でマスターし、体を壊すほどのめり込む柴山哲郎という人物。何であれば作るパンも旨い。

こういう人物だからこそ、音楽でも食べ物でも、彼の作り出すものに対しては、ユーザーとして高い信頼感を感じる。突き詰めたものにある生真面目さとある種の気品。安易に言えばこだわりという言葉になるかもしれない。

しかし、“こだわり”という言葉ではこの感覚は表現しきれない。

なんか面白いことが好き

一方で、ものすごくユーモアに溢れている人物でもある。彼は一人芝居と演奏のDVDを自主制作している。『解放ショー』というタイトルでそれぞれのテーマに合わせた音楽も、その短編でテーマになる哲学的な言葉もトータルで印象的な作品に仕上がっている。

「なんか面白いことが好きなんですよ。歌詞もたまに書いたりもします。得意じゃないけど嫌いな作業じゃないですね」という。『エレクトリック』の曲名には不思議なタイトルも多いが意外にも「曲名はめっちゃ適当なんですよ。曲と違って、曲名にはあまり込めてない。一方でリフのかっこよさとかは憧れるんですよね」。

『エレクトリック』に並ぶ楽曲はゴリゴリのリフが印象的な曲だけではない。“一軒の家”などどこか哀愁の帯びた楽曲がある。こうした表現はギターにフィットし聴く人間の経験や想像力に語りかける。柴山は自身の経験や思いを音楽に繫げられるミュージシャンなのだろう。

「日本の里っぽい感じは奈良出身だからかもしれないですね。秋の風景みたいなのがすごい好きです。後はアイルランドの民謡もすごい好き。誰が書いたか分からないけどぐっと来る曲って凄いじゃないですか。

僕の”一軒の家”とかも100年後に誰かが聞いて感動したら最高だなって思います。アイルランドにイーリアンパイプという楽器があるんですが、その音色がめちゃめちゃ好きで。楽器を転向しようかなと思ったぐらいです」。


ロックのチョイ悪なカタルシスとジャズの跳躍力、そして不可思議さを持った柴山の音楽。「まあ、40過ぎて不良とか言ってられないですけどね(笑)。

僕は生真面目な部分があるので“表現しなきゃ!”とか、そういうことを考えすぎる。
そこを考えないでドバーンと行けばいいんですよね、本当は。でもそれがこの作品では意外にできたかなと思います。今まで聴いてきたもののエッセンスも入ってるし。ロックぽいサウンドだけど、フォーマットはジャズ。インプロもあって。1発で録るというのもそうだし。それに“解放ショー”なんかはプログレ的だし。もう人生折り返してるから、こういう感じは若い頃では出せなかったかもしれないですね(笑)」。

「ガンガンやりたい。あくまでも楽しく」という柴山は、今、言葉通りの活動を見せている。2018年の12月には彼も愛用するギターメイカーであるXoticのSNS企画で“解放ショー”の『弾いて見た企画』が行なわれた。

そして早くも次の作品へ

柴山哲郎は『エレクトリック』に続いてミニアルバムを制作している。このインタヴューを行なった11月の初旬にはすでに録り終えているとこの時話していた。メンバーをまた少し変えて1月25日にリリースする、その名は『解放ジャム』。

『解放ジャム』は、前作の『エレクトリック』より、良い意味で力の抜けた作品になっています。音の感じもギターミュージックを聴かせるというより、みんなでジャムってる感じを出したかった。僕がその時々で気に入ってる人とジャムるという企画。曲も新しいのもあれば、古いのもあったり。その辺が前作と違うところかな」。

『解放ジャム』はベースに柴山と同郷のベーシスト・岡崎アンナ、鍵盤には多彩なプレイを見せる佐山こうた、そして『エレクトリック』に続き、中村亮というメンバー。

編成を変え、また違った柴山の一面、そして各プレイヤーのエッセンスを煮詰めた濃厚ジャムということだ。

帰還したギタリストはギターを携えて、皆を解放するのか、それとも自身が解放されるのか。いずれにしても、すでに次の制作に入っている。これからもその力強く楽しいギターでマイペースに我々を楽しませてくれるつもりだ。

(文/鈴木りゅうた)

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