Pat Metheny “Side EYE”公演を振返る

Pat Metheny 2019

パット・メセニーといえばギター界にかぎらずジャズ・フュージョン界のトップスターである。この2019年1月は月のほとんどを日本で過ごし、3種類の編成で公演を行なった。1975年にECMから最初の自己名義のアルバムをリリースしている。つまり、ほぼ私の生きてきた間、ずっと第一線でキャリアを重ねてきていることになる。

好みはあれど、どういった作品や演奏も高い密度で取組んでいる彼に対し、誰もが一目置くような存在であり続けている。自身の音楽スタイルをさまざまな音楽スタイルに引き寄せ、常に“らしさ”を失わない。強烈な個性を持ちながら、キャリアのスタートから神童ぽいところや、いつも品位を失わない優等生ぽさは鼻につく向きもあるだろう。しかし、どう言うおうとも音楽へ使用しているカロリーは凡人レベルではない。

その変わらぬ熱量は当時の若者たちから熱烈に支持を受け、そのまま当時の若者に現在も支持され続けているのだろう。この数年、何度か公演を見る機会があった。客層は50~60代が中心といったところだが、毎回、ジャズのライヴに対する熱量を遥かにこえた熱気がある。

パット・メセニー自身の気合いも毎回高く、全力投球である。来日公演時の公演時間以上に長いサウンドチェックは有名な話でもあるし、演奏することに妥協を許さない。以前、インタヴューしたアルトサックス奏者ローガン・リチャードソンが自身のレコーディングにパットをオファーし実現したアルバム『Shift』のレコーディング時のエピソードでは1曲に対して必ず6種類ぐらいのセッティングを用意してきたという。その結果、そこら中がメセニーの機材だらけになったという。ローガンの言葉を借りれば「いつも300%』で挑むのが彼のやり方だ。それゆえに長くファンで居続ける人が多いのではないだろうか。

3週に及ぶ来日公演

そこで、この1月の来日の1ステージだけ観覧したので記録しておきたいと思う。

この来日では日本のトップミュージシャンによるビッグバンドとの共演を1週目に、その翌週にリンダ・オー、グイリム・シムコックとのピアノ、ベースによるトリオ、そして新たにパットが気になる若手と演奏するプロジェクトであるSide Eyeでのネイト・スミス、ジェイムス・フランシーズとのドラム、鍵盤とのトリオと毎週メンバーと楽器編成を変えて演奏した。ほぼ1ヶ月間の日本ということで、日本のファンはちょっとしたお祭り状態だったようだ。

自分はブルーノート東京の1月19日の1ステージ目、Side Eyeを見た。この新たなユニットはパット・メセニーの若手発掘プロジェクトといったところだろう。

ネイト・スミス作夏にアダム・ロジャースのトリオで見ている。若手というよりはもはや中堅といってよいだろう。ホセ・ジェイムスなどとも共演していて、現代的なリズムアプローチも出来て、インテリジェンスな側面を持ちつつ爆発力もあるパワー&インテリジェンスなタイプ。ジェイムス・フランシーズJames Franciesはロバート・グラスパー以降の筆頭株と目される1995年生まれ。ブルーノートからアルバム『Flight』をリリースしていていてアルバムでの幅広いアプローチが魅力的だ。

開演前の熱気は高く、口々に「昨日は~を演奏していた、この前は~を演奏したらしい」など複数回通っている人やリスナー同士の情報交換も盛んに行なわれているようだった。中には3週間全て通っているような強者も存在するような熱狂を集めている。

セットリスト

先に記憶と自分の知っている範囲の演奏曲目はこんな感じだった

1.Turnaround
2.So may it secretly begin
3.Jaco
4.Sirabhorn
5.Red one
6.Always And Forever
7.不明 (ブルース進行のオルガンジャズ風)
8. When we were free

という感じだったと思う。

2年振りに観るPatと感じる様々な変化

登場しての正直な第一印象はパットがこの2年で太っており、何か健康的じゃない雰囲気があった。服装はいつも通りなので余計にそう感じさせた。

1曲目はシンプルなコード進行で、ベースはジェイムスがキーボードの左手でフォローする。音色もウッドベース的なサンプルを選択して特段に雰囲気を変えようというものでもない。ジェイムスは器用なタイプと見た。ステージ上では時折忙しそうな印象だったが、メロディアスなアドリブもブルージィな演奏も出来る。激しく熱いというよりも整理されていて的確に状況選択ができる。

ネイトのドラムは柔軟で太い。筋肉質でバネが強い。複雑なことにも対応するタイプだが、そもそも基本性能が高いのだろう。ほどよく自由にリラックスした雰囲気、バスドラムの力強さや明確かつ太い音色、反応の良さ、楽曲へのニュアンスの付け方も文句の付けようがない。

全体的にコード進行がシンプルな雰囲気のものも多く、各演奏者にある程度自由なアドリブへの幅を残していたように感じた。それでもSo may it secretlybeginやJacoなどはキッチリしていたように思う。

もう一つ思ったのは、パットはいつもアンサンブルを仕上げてくる印象があったが、今回に限ってはそこまで細かくは仕上げてない感じがあった。そうしたことは演奏曲目にも出ていたと思う。セットリストも毎回変えていたようで、何かが生まれる余白を十分に取りたいという意図は明白ではないだろうか。しかし、一方でやり馴れた曲もどんどん更新していく感じもあった。また、ブルース進行の曲にマジかよと思うようなやたらとメカニカルなハマらなそうなフレーズをぶちこんで成立させるところなんかは、思わず“すごいな”と口から漏れてしまった。

こうした凄さはハプニングでこそ現れる。『Red One』で白いフルアコからソロ前にローランドのGRヘ持ち替えたのだが、セッティングに何か問題があり、素のバイパスされた音しか出ないというハプニングがあった。本人はけっこう慌てていて、何かのペダルを踏んだところ回復した。しかし、むしろそのトラブル中に弾こうとしていたフレーズもやたらかっこ良いというところ、、、、。その後、最初のトラブルを払拭すべく140%くらいのところまでテンション上昇の熱いプレイを披露していたところもさすがとしか言いようが無い。

最後の『When we were Free』では3人で思い切りやり、相当アンビエントなところまでいった。エンディングでは“それでこれどうするんだ?”的空気に会場含めパット以外全員がなっていたが“そのままいけ!”というパットの指示のもと幻想的な雰囲気のまま終了した。アンコールはなく“アリガトウ、Thank you!”とさっと楽屋へ。分量的にはまだ見たいようなお腹いっぱいなような。もう少しやればもっと何か出てくるという感じがした。

自分が見たセットは細かいところでは少し精度が低い、というより模索している感じが目に見えてあったと思う。特にジェイムスはどこまで何を出すか、まだ躊躇が見える瞬間があった。しかし、ポテンシャルは選択肢を持っている感じに強く出ていて、出来る幅が相当に広く、視野も広い。こなれてくると相当ハマるのではないか。

この日は当のメセニーもすこしもつれる瞬間があった。しかし行くところはとことん行く気合いは相変わらず。やはり疲労感があるように見えて体調はどうなのだろうと少し気になったが、何が出てくるか、他のプレイヤーを待つ感じというのはあまり見たことが無い。今まではとにかく率先して攻める印象が強かったが、今回は新境地的な感じもあった。相変わらずスナップの利いたピッキングによりしっかりと弦を捉えていて音は太い。

一方、ネイト・スミスは仕上がっているように感じた。プレイヤーとして充実期にある感じだ。”いつでも、なんでも来い”という感じではないだろうか。状況に合わせて、柔軟に対応出来るし、複雑にもシンプルにも変化できるという印象。何より一打一打に気配りされており、ファットで気持ちのいいリズムを生み出せる。今、もっとも乗っているプレイヤーの一人だろう。

あえて普段より練り込まずに、全開まで筋肉を伸ばしきる、そんな印象をこのトリオに感じた。昨年、アントニオ・サンチェスやリンダ・オーとのレコーディングをしたというパット・メセニーだがこれはまだリリースされていないし、この新たな企画、SIDE EYEがどのように結実するのか、可能性の幅があったこともあり、何を見据えているのかがこの後の出来事でわかるだろう。

(取材/文:鈴木りゅうた)

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