中村亮の局地的フェス-Beat Da Rhythm!

中村亮という男

偶然なことから仲良くなった男がいる。その人物、ドラマー“Akira Nakamura”という名はもう15年くらい前から知っていた。まだ彼がボストンやニューヨークで活動していた時期だろうか。一時帰国中にBig Yuki、田中拓也とのjp3を見たり、その後の日本での活動中も何度かその演奏を見たことがあった。幅広い音楽に対応できる柔軟さ、鋼のようなしっかりとした軸があるリズム、高速に運動するムーブメントのようなドラムが印象的だった。


その後、彼が自分と似たようなタイミングで大病したという話を聞き、なんとなく同胞間もあったからだろうか。ひょんなことから話をするタイミングがあって、不思議と仲良くなった。

中村亮は、実にオープンな人間性をそのまま音楽に対しても持っていると思う。日々、自分自身のスキルを高めるストイックさがそのオープンマインドを支えているのではないか。オープンでいるということとは特段に構える必要はないことでもある。もちろん、すべて飲込むということでもない。彼と話していると「オープンマインドに過ごす」とは「確かな個の確立が周りの個性を活かし、世界を広くすること」なのではないかと思った。もちろん、そのまま音楽のスタンスへと直結する。

東京を漕ぎ回る『櫂』

今年、その中村亮が、自身で率いるTrickstwart Bandの新しいアルバムをリリースした。そのリリースしたアルバム『櫂』について色々話をする機会があった。

沖縄出身の彼はボストン、ニューヨーク、東京、中国、そして今はドイツはベルリンに本拠地を置いている。それぞれの場所で自分という存在とドラムのスキルを礎に今も生きている。「どこに住んでも1ヶ月でギグの仕事を取って来れます(笑)」という彼。だが、不思議と嫌みがないのは彼のキャラクターゆえだろう。もちろんその言葉には彼のドラム演奏と日々の過ごし方が裏書きされている。

それでも最初に東京に拠点を置いた時は「大変だった」と振返る。長い海外暮らしが故か、ぶつからないようにまとめる日本的なやり方に合わなかったという。

「今振返ると相当尖っていましたね(笑)。今なら、そうしたやり方もわかるし、合わせらることもできる。結局、どちらのやり方がいいというわけじゃないですし」と語る。「まず、やりたいことを主張しぶつけ合うのがアメリカのスタイル。その上でさらに良いものを目指そうという感じ。日本はみんなでどの辺を目指せるかをさぐりながらやる。結果的にできるものの形は少し違う」。

こうした、地域性による手法の違いについての考察は話していると、とても面白い。そうして世界中にさまざまな音楽が生まれ、その地域のムードを共有し楽しんでいる。何が優れているという話ではなく、両方に面白みがあるのだ。

さて、こうした東京である意味では傍観者的に中村が見た感覚やシーンを捉えた部分をテーマにしているのがアルバム『櫂』。一時期、「1日1曲作ろう!」と作曲に取組んでいた時期があり、そんな東京の日々を描く。

そこで描かれるのは様々な人が集まる背景、人々の織りなす景色。時には朝までに及ぶジャムセッションの熱気や、電車での独特の疲労感と緊張感ある風景、コミュニケーション、集団からの個の確立などさまざまだ。

「けっこう曲は細かく指示があって難しい。でもそれをこなせて、かつ何も言わなくても個性の出せるメンバーを集めた」というミュージシャンたち。「実は東京を描くといいながら東京出身の人はいないんですよ」と中村。単純に“これが東京人の音楽”と提示するのではなく、外から東京へと飛び込んだ人が持つ感覚を表現している。

そのアルバム「櫂」はそれぞれがまさにオールを持って表現を高める。オープニングから、不思議なテーマを奏でるホーンセクション、唸りを挙げるギター、這い回るベース、そして時にカラフルに叙情的なドラムが色々な場面の想起を促す。曲を進めればファンクネス溢れるセッション、個のつながりを独特の世界観で描くFasunの歌う“Home”なども。「東京から世界へ」なのか「世界から東京へ」なのか、今や不思議な国際都市である東京を計らずも示すアルバムに仕上がっている。

インタヴューの中でなぜ今ベルリンにいるのか聞くと「最終的には学校をやりたい。そのためのステップ」という答えが力強く返ってきた。そしてこの10月に中村亮がベルリンから一時帰国。10月20日には自身のバンドでも「ライヴをやる」という。そのライヴで計らずもその一端を見ることができた。

Beat Da Rhythm開催!

Trickstwart Bandでのライブは6月にモーションブルー横浜でレコーディングメンバーで行なって以来。場所は下北沢のジャムセッションどころとして有名なRPM。

「自分の見たいバンドも呼んでフェスとして開きたい」と2つのバンドを呼んだ。Beat Da Rhyhtm!!と題し Trickstwart bandの他に中村が声をかけたのはモミーFunk!とMahogany Organ All-starsの二つ。どちらも今、絶好調に活躍するバンドだ。

RPMは赤い壁と不思議な造りのお店。ジャムセッションもよくやっていて、この数日前にも中村自身もホストに加わりセッションを行なっていた。そしてこの日は「一番最初に思い切りやって他のバンドをやりづらくしたい(笑)」という中村亮的な接待感から自身のバンドが最初に登場した。

ジャングルクルーズのようなTrickStwartbandという船

サックスの浦広徳とトロンボーンの和田充弘による編成で、ギターに柴山哲郎、ベースに高橋佳輝というメンバー。オープニングナンバーから集中力高くエネルギッシュな中村のドラム、それに呼応するかのようにギターの柴山も思いっきり太いギターでフロント2管を煽る。

狭いハコのサイズに合わせないテンションに釣られてバンド全体の描く円が大きくなっていく。高橋のベースはとぐろを巻く大蛇のように低音部で畝回る。バンドの盛り上がり方は、船が動き出すような感覚。まさに櫂で漕ぎ出したバンドのアンサンブルは風向きをうまく捉えてどんどん波を切って進む。

後半になるほどに大型帆船のように力強く進路を取り勢いを増した。特に柴山のギターが強烈で、船の周りを自由に飛ぶ鷲のよう。それを下からウネウネと狙うアナコンダのようなベース、そして浦、和田による2管は風を受ける帆のようにバンドのエネルギーを受けて進んでいく。そしてテンションが上がれば上がるほど、繊細さが増していく中村のドラム。ソリストをどんどん揚げ、グルーヴはタイトにまとめていくのは彼の真骨頂。

曲数は少なかったが後半に行くほどにアンサンブルは密に、かつ温度の高いパフォーマンス。音の編み出す世界感や物語を聴く人に想起させるパフォーマンスだった。

強烈!続いて登場したモミーFUNK!

ドのつくようなファンクバンドながらドラム、ギター、そしてヴォーカルという変則的な小編成。こうした編成による難しさをコロンブスの卵的な発想で、少人数だからこそのタイトなグルーブに昇華する。

ギターにオクターバーをかけて低音部を提示しつつ、粘っこくタイトなカッティングで屋根を支える鈴木井咲、エネルギッシュで柔軟なグルーヴで柱を作る数井類のドラム。ここになんともユニークなルックスで圧倒的なエンターテイメントとファンクネスを炸裂させるヴォーカル、モミーの3人。

TrickstwartBandの作り出したインストによる少しシリアスなムードも、この3人には関係ない。温度感のみを引継いで、激烈なパフォーマンスを見せた。

モミーサイクリング!強烈!

とにかくモミーのナンセンス、下ネタあり、そしてあくまで超絶ハイテンションが会場を爆笑で包み、一体感を生む。音楽的下地をつくる楽器の2人は表情を変えない。生み出す鉄壁のグルーヴは強烈な凄みがある。

2つは大きな両輪となり、会場全体がグルーヴした。ファンクネス溢れ出る激流。危うい客いじりも最終的には絶対にウルトラCで着地させるステージ力も圧倒的。まるでジェームス・ブラウンのファンクレヴューに見世物小屋の下世話さと落語の粋な落とし前を加えたよう。多いに笑った。

注目のオルガンバンド登場!

最後はマホガニー・オルガン・オールスターズが登場。オルガンの山本研、ドラマーの岡田真帆、サックスの石井祐太、ギターの鈴木洋一の4人による注目の若手オルガンジャズバンド。彼らはジャズのコンボながら強いバンド感を放つ。岡田が「なんで最後。超やりいくい(笑)」という中村の予定通りのコメントだったが、演奏を始めればそうしたことも関係なく、あっという間に彼らのムードに塗り替えた。

基本的にはエネルギッシュで、そこを押し引きの効いたコントロールで引張るドラムの岡田が饒舌だったり、なぜか筋肉質な鈴木のギターが全編指弾きによる繊細な演奏だったり、メガネに細身のインテリな雰囲気から出てくるフレーズがそのキャラクターを裏切らない石井のサックス、そしてまさにバンマスぽい山本の風情、、、なんというかそれぞれがキャラ立ちしている。

現代ジャズ的な深刻なムードは少し置いておいて、エネルギッシュでポップさのあるサウンド。オルガンジャズのオーソドックスな線は残しつつ、あくまで現代っ子によるサウンドを提示しているのが面白い。ジャズ的な有機的に変化するアンサンブルの面白さを提示しつつ、現代的な雰囲気にも対応するオルガンの魅力も伝えるいい演奏だった。

中村亮という男

最後は出演者全員によるセッションでドラムをもう一台追加し、客席も巻き込んで盛り上がった。出演者もお客さんも全員がハッピーな時間。

気づけば中村を囲んだ飲み会のようでもあったが、知らない人同士でも繋がり、一つの世界を形成していて、確かにフェスティヴァルとしての定義を満たした時間があったように思う。登場した皆が主役として輝いていたのも良かった。

中村亮の目標でもある学校だが、彼の作る学校は楽しいだろう。そんな想像も浮かび、確かにこの日の中村は校長先生のようでもあると強く思う夜だった。

(文/写真:鈴木りゅうた)

Akira Nakamura Offical Site
モミーFunk!
Mahogany Organ All-Stars

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