デビッド・ギルモアの新作『Transition』

ジャズギターにこだわりつつ進化を求めるギタリスト

デビッド・ギルモアDavid Gilmoreは80年代末くらいからM-BASEのギタリストとしてスティーブ・コールマンやグレッグ・オスビー、カサンドラ・ウイルソンなどのレコーディングに参加していて、私は当時は中学生なのでもちろんリアルタイムではない。

またアダム・ロジャースやデビッド・ビニー、フィマ・エフロン、ベン・ピロフスキーとロスト・トライブを結成しアルバムを2枚リリース。その後ギルモア抜きでロスト・トライブは一枚アルバムをリリースしている。

またウェイン・ショーターの95年作『ハイライフ』にも参加しツアーにも出ている。


またM-BASE最前線で2002年くらいまではレコーディングにも参加し、他にもジョス・ストーンのツアーサポートやマンディ満ちる(当時のバンドが豪華)など様々なフィールドで登場する。


2002年の6月10日にマンハッタンのローワーイーストサイドにあったトニックという名店(すでに閉店)で彼のリーダーバンドを見てぶったまげたのが強烈に意識した最初だと思う。

その時はベースがジェイムス・ジナス、ドラムスはナサニエル・タウンズリー、ピアノにジョージ・コリガン、テナーサックスにジャック・シュワルツバルト、トランペットは確かラルフ・アレッシだったと思う(トランぺッターだけ記憶が曖昧)。

丁度始めてのソロアルバム「Retualism」をリリースしたタイミングでもあり、彼の作曲による楽曲でステージを構成していた。

ほとんどの楽曲がリズム的に複雑なものばかりで13/8や7/8など素数ばかりで考え始めると難解なのだが、そのリズムの活き活きとしたエネルギッシュな感覚と現代的なハーモニー、そしてかっこいいメロディは衝撃だった。

分離のいいサウンドでスピード感溢れるプレイは最高にスリリング。またアルバムでフィーチャーしたSadiqという詩人の朗読が入った曲が程よくアングラ臭を放ちつつかっこいい。

Sadiqはクラリネット奏者のドン・バイロンのアルバムでよくクレジットされていた(デヴィッドも)。そのライブ後にビレッジらへんにまだ当時あったタワレコにて速攻『Retualism』をゲットし当時ヘビーローテーションしていた。

その後、クリスチャン・マクブライド、ジェフ・ティン・ワッツとのトリオ作「Unfiled Presence」を2006年にリリース。

曲によってラヴィ・コルトレーンをゲストによりシンプルだがエネルギシュなアンサンブルを展開した。

またクラウディア・アクーニャをゲストに迎えた楽曲なども入っていて緩急がついている。

 

続いてはより幾何学的なセグメントで楽曲を構成した実験的なライブをニューヨークのJazz Standerdで行い、その模様を録音した「Neumerology」を2012年にリリース。

内容は2ndアルバムのメンバーに加えてミノ・シネルやミゲル・ゼノンらを加えての中規模編成。ライヴの映像もYoutubeで公開している。


2015年にはマーカス・ストリトックランド、ベン・ウィリアムスら新鋭、そしてドラムスにはアントニオ・サンチェスを擁して「Energies of Change」をリリース。

とにかくリズム的にはチャレンジの多い内容。

しょっぱなの美しいアルペジオから始まり、ソリッドで複雑なビート感に乗ってスピード感溢れるギターを聴かせる。それぞれのメンバーも容赦なく、特にアントニオ・サンチェスの影響は大きくタイトでエッジの効いたリズムが印象的だ。


全4作通して、デビッド・ギルモアの打ち出しているスタイルはスピード感、ソリッドなリズム、変拍子の多様、ロックフィーリング溢れるソロ、ファンクギター乗りのカッティングやシングルノートリフなど。加えてガットギターもわりと好み、オーガニックなアフリカンポップス的要素も出してくる。

また2000年代初頭にドン・バイロンやウリ・ケインなどがマーラーやバルトーク(スティーブ・コールマンもバルトークは研究対象にしている)、シューベルト、バッハなどクラシックのメロディや構造を研究してアレンジを施すプロジェクトなどにも参加していたりもする。

彼と同世代のギタリストだとアダム・ロジャースやベン・モンダーなどクラシックギターをしっかり学んでいるプレイヤーも多く、60年代生まれのプレイヤーがすでにジャズについてもう少し広く何かできないかというのは決して主流派ではないが一つの潮流としてはあって、そうした2010年代に続く動きは90年代から続いている。とはいえ、デビッド・ギルモアの音楽からはM-Base的な要素を強く感じさせる。

それでも基本的にはジャンル横断型の人で音楽のカテゴリーについての話をしたことがあったのだがその際にはマイルスの「世の中には音楽は二つしか無い。良い音楽と良くない音楽だ」という言葉を引用し、レッド・ツェッペリンやジミ・ヘンドリックスに対する深い造詣のみならずパンクロックの話もした。

またラテン、アフロビートなど音楽に対して分け隔てのない人である。

とはいえ当時飼っていた愛ネコの名前は”Jazzman”。なんだかんだジャズがもっとも好きなのだ。


『Transition』はクリスクロスからのリリースとなって驚いた。クリスクロスは素晴らしいギタリストの作品を多数出しているが、割とどれも同じようなサウンドプロダクションで金太郎飴感が強い。

例えば「ギターをやっています、サックスやっています」みたいなリスナーは楽しめるがけっこうジャズしてるレーベルというイメージで割とレーベルカラーをしっかり守るイメージがあるので彼のようないきなりはみ出してくるタイプのイメージではなかったからだ。

実際、内容はM−BASE風の1曲目からはじまり、スピード感のあるスウィングあふれるボビー・ハッチンソンのカヴァーの3曲目などの他にも静かな美しい曲などヴァラエティに溢れている。

また昨年長い闘病生活の末に亡くなったヴィクター・ベイリーを追悼した7曲目などはオールドスクールなヒップホップ乗りだったり、最後にはエルメート・パスコワールのカバーでガットギターで美しく可愛らしく締めている。

こうした起伏の多い作品がクリスクロスから出てくるというのは今のジャズの状況を示しているのではないだろうか。昨年、ボリス・コゾフのクリスクロス作がギタートリオだったがそちらは

ちなみにピンクフロイドのデビッド・ギルモア(David Gilmour)とスペルが違うので要注意。

文・写真:鈴木りゅうた


『TRANSITIONS』

デビッド・ギルモア David Gilmore

2017 Criss Cross 1393
メンバー
デビッド・ギルモア  ギター
マーク・シム     テナー・サックス
ヴィクター・グールド ピアノ
カルロ・デローサ   ベース
E.J.ストリックランド  ドラムス
グレゴリー・マレット ハーモニカ(4曲目)
ビル・ウェア     ヴィブラフォン(8曲目

曲目
1. End Of Daze (David Gilmore) 6:28
2. Beyond All Limits (Woody Shaw) 5:31
3. Blues Mind Matter (Bobby Hutcherson) 7:06
4. Bluesette (Toots Thielemans) 5:57
5. Both (Annette Peacock) 5:05
6. Spontanuity (David Gilmore) 6:32
7. Kid Logic (Victor Bailey) 5:37
8. Farralone (Bobby Hutcherson) 9:13
9. Nem Un Talvez (Hermeto Pascoal) 4:36 ※()内は作曲者

プロデュース:ゲリー・ティーケンス
録音:ジョー・マルキアーノ(System Two,ブルックリン 2016年9月19日)
ミックス&マスタリング:マイケル・マルキアーノ

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