カートまたも来日
「カート・ローゼンウインケルが新しいユニットBandit65で来日」という情報を受け取ったのは昨年の11月末くらいだった。それでyoutubeを見たらけっこうアブストラクトでフリーな感じのことも未だにやってるんだなと思ったのだった。
カートの魅力は、よく知られているところというかわかりやすいところではもちろん日本も含めた全世界にフォロワーを持つギタースタイル。一方でメロディメイカーとしても独特の陰影の濃い印象的な曲を次々と作り出すところでもあると思っている。『Caipi』ではその魅力が柔らかく表現されていた。その辺のところは春先に書いた記事を再度確認されたし。
一方で、突然”そんなことしちゃうんだ!”みたいな型にはまらないところがある。というか、創造性に特化していて、商業的なことを意識していない感じというか、流れをぶった切って個性的なことを示したりする。そういうスタイルが逆に新しい流れを引き寄せる魅力になっているのだろう。
例えば『Heartcore』は、あのタイミングであの作品を出すことで、それまでのキャリアを相当ぶった切った作品だ。だが、結果としてカート・ローゼンウインケルを語る上で、どうしても外せない作品になった。その後にジョシュア・レッドマンを交えたアコースティックな作品をリリースし、Artistshereで2枚組のライヴアルバムを出しても、受け取る側は単なるギタリストに終わらない彼のスタイルの幅広さをどこかで感じながら聴くことになる。
まさか“山賊”とは!(笑)
Bandit=バンディット。山賊65ということになる。1971年生まれのカートも、もう40代後半になる。それが“まさか山賊なんて(笑)”という名前。このユニットは2013年にはレコーディングをしている。2016年の5月からライヴを幅広くしていたようだ。フリーインプロヴァイザーとしてのカートの魅力が満載のユニットと言えるだろう。
他のメンバーはデビッド・シルヴィアンや、詩人のウルスラ・ラッカー、ジャマラディーン・タクマとも活動するギタリストのティム・モッツアーTimMotzer。彼はフィラデルフィアを拠点にいくつものプロジェクトに関わり、自身で1kResordingsというレーベルの運営も行なっている。
カテゴリーについてはもはや彼にとっては無用の長物だ。Bandit65や自身のソロ名義以外にもインスタントタケミツというユニットもやっていたりと活動は多岐に渡る。このユニットの結成の始まりについては1k Recordingsのサイトに書かれていて、2008年にティム・モッツァーがスイスでウルスラ・ラッカーとのギグを行なったことがきっかけだそうだ。そのライヴ終了後にカートがティムに声をかけたところから関係が始まり、このユニットの結成までに至った。またその時のドラムがジンタス・ジャヌソキスだったそうだ。
ドラマーのジンタス・ジャヌソキスGintas Janusonis。ミルウォーキー出身リトアニア系アメリカ人で、現在はニューヨークを本拠地にして活動を続けている。バイオリンのトレーニング方法であるスズキメソッドを子供の頃に受け、ジャズを演奏していたという。
その後、ボストンのバークリー音大の作曲科を卒業している。ヒップホップやソウルからアブストラクトなものまで広い対応力と語彙の豊富なドラマーだ。ビラル、ウータン・クラン、ビル・ラズウェル、アンジェリカ・キジョーさらにはリー・ペリーやブランフォード・マルサリスなどなど共演者のラインナップが彼の幅広さを物語っている。他にも劇盤の制作も行ない、レコーディングエンジニアとしての側面も持つ。
二人と比べるとカートはジャズをド真ん中にして変化球も使いこなすタイプに見える。ティムにしてもジンタスにしても、今ある様々な音楽から幅広く影響を受けていて、その中にはジャズも含まれるが、カテゴリーについての頓着はなく、その時に自分自身がフィルターとなって何を選択するのかということを重要にしているミュージシャンたちだ。
そしてカート・ローゼンウインケルというギタリストも、世界中のたくさんのジャズギタリストに影響を与えたけれども、ミュージシャンとしての資質というか志向に関しては二人と通じるものがあると僕は考えている。
例えばQ-tipとの交流などを振返れば、以前から非常に幅広いのだ。彼にとっては基本語彙として何語をしゃべっていたかくらいのものなのかもしれない。
Bandit65について、本人たちの説明はこうだ。「ギター、リズム、エレクトロニクス、サウンドスケープ、実験主義、サイケロック、フリーインプロヴィゼイション、テレパシーのようなインタープレイなどを交錯させて探険する」ユニット。
カートは「バンディット65はフリーインプロの実験的音風景、多面的質感のサイケデリックなグルーヴモンスターかつ魂がこめられてるもの」という。
とにかくいろんな音色を使って、自由なアプローチで立体的な音像を作り出して、ちょっと行っちゃってる世界にいってみようというユニットということなんだろう。ちなみに65の意味はわからない。本人に聴けば良かった。
Bandcampで2014年にレコーディングされた作品が配信が始められていて、それを聴くと、わかりやすい。ティムとカートのギターが漂うように絡み合う1曲目は、リバーブのよく聴いた音像が印象的だ。それぞれの演奏が有機的に絡み合い、変化が変化を生んでいる。続く2曲目での妖しげな世界観。ギターをインターフェイスにして音の組合わせの無限を感じさせる。
音楽はライヴの現場で生まれる!
今回、見に行ったライヴの日が金曜日ということもあり、けっこうな集客だった。エントランスにはカートが現在使用している日本のギターブランド、westvillのギターが飾られ、皆が携帯に出し写真に収めていた。
ステージにはカートのセットだけでもいつもの5倍はあるだろう。それぞれが大量の機材を持ち込んでおり「これは電源の確保が大変そうだな、、、」と最初に思ってしまった。
始まると乗っけから3人とも集中力高く、どんどん音の出力へのめり込んでいく感じが伝わってきた。ゴダンのナイロン弦でギターシンセも導入しているティムが音量に気遣いながらだったがそれもほんの一瞬だった。エレクトリックなパートで導入が始まるとだんだんとコードの展開が共有されて、そのセッションの後半にはそれぞれがハーモニーを共有したインプロヴィゼイションを繰り広げていく。二人のギタリストのそれぞれのバッキングのセンスの良さといったらいいようがない。
「本気で遊びにきましたから!」という風情で3人ともガンガン攻めていく。なんというか大人が好きなものを箱買いしていくような感じだった。大人げないが、そこがまた凄い。
2曲目ではカートがMidiキーボードを弾きまくる。これがギターでは見せないような、真剣な雰囲気でそれがまたかっこ良かった。ギターに持ち変えると余裕を感じた。ティムはパット・メセニー的なギターシンセサウンドなんかで長い音符をうまく使いながら、独特の世界観のある美しいサウンドを作り出していたのが印象的だった。一緒に行ったS氏がソロ中に思わず「彼はすごくいいですね!」と声をかけてくるくらい良かった。
個人的にはジンタスがすごくツボ。ラフな格好で登場したのもあったが、カオスパッドやエフェクターをいじり回している姿が、なんというかナード的で、ものすごく味があった。ルックスが「このエフェクター俺が作ったんだよね!」と言い出しそうな感じ。
90年代はコンピューター作ってましたみたいな往年のオタク的ルックスと、ドラムでの様々なフィールを用いて立体的な音作りに貢献する姿のギャップがなんとも言えず面白い。
そうした3人が有機的に反応して1時間20分くらいの演奏を繰り広げた。たしかにサイケデリックで異世界に行ける音楽だった。少なくとも自分は5回くらい異世界に行ってたと思う。あと珍しく、カートがペンタトニックでチョーキングを多く絡めたフレーズを弾く場面があった。ステージ上もテンションが上がっていて、音に集中している様子が伝わってくる。解放されていた。
Bandit65という名の通り、かなり山賊。音の山賊らしい無法、無秩序。自由だけど、少し哀愁があるのも山賊ぽい。リッチマンの自由とは違うのだ。彼らが日本人なら、忍者65と名付けたかもしれない。身のこなしの軽さ、変幻自在さがあった。
このユニットはカート以外の二人の存在も相当にでかく、二人とも素晴らしいミュージシャンであることを知らしめている。カテゴリーが音楽を聴く上でもはや地図にはならない。Bandit65の音楽は音だけを聴けば、アレック・エンパイアやエイフェックス・ツインのように感じる場面の多いこと。その中で3人ともコンパスのようにジャズを懐にしたためて旅に出ている、そんな風に思った。
もう一つ思ったのは、カート・ローゼンウインケルはジャズを完全に突破しているということ。自由に行ったり来たりしている。今後、ジャズの概念が再び追いつくために彼の音楽を内包するのだろうか。こうしてどんどん言葉の概念が拡張していくのだろう。
どちらにしても貴重な瞬間を目撃したことには変わりはないだろう。物販では彼らのライヴ音源のダウンロードコードも販売されていた。少しづつ音楽流通の変化も見られる。
(写真・文/鈴木りゅうた)
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