アダム・ロジャースはやっぱり凄かったの巻

ギターと一言でいっても

ギターマガジンで様々なギタリストにそれぞれの3代ギタリストを上げてもらうという企画がやっていた。挙げられる顔ぶれを見ると、非常に幅広く「ギター」と一言に言っても幅が広い。雑誌の性格上、クラシックなどの人は挙げられなかったけれど、そこまでフォローしていくと3人に絞るのは非常に難しいのではないだろうか。

今年はジャズ系のギタリストの来日が多い。3年ぐらい前からこうした傾向がある。新しめの若手からベテランまで非常に幅広い。もう5月のことだが、フィンランド人で今、ニューヨークでバリバリやっているオリ・ヒルヴォーネンが来日したりしていたし、その後も毎月2~3人はギタリストが自分のリーダーバンドで来日している。

最近の若手ギタリストがこの2年くらいカート・ローゼンウインケルの強い影響を超えてバラエティが広がっている感じがある。時代を振返ると、俄然影響は大きいが2000年ごろのカート・ローゼンウインケルをスタートラインにまた再スタートを切ったという感覚がある。そういう傾向は今年に入ってから個人的に顕著に感じている。マイク・モレノはすごいカートの影響あるなあとか思っていたけど、先日見たら少し違う感じがある。マーク・ターナーとの来日だったので余計に違いがわかった。もっと直線的でメロディに絡むようにスウィープを連発し、スピード感の中にどこか静謐さを湛えた感じがより強くなったように思った。そのカート・ローゼンウインケル自身も、もう10年前の音楽とは違うところにいる。

先述のオリ・ヒルヴォーネンは楽器はジャガーを選択している。実際に見ると思っていたより音も歪ませて、グランジ×フュージョンみたいな感覚もあった。

万能型だがジャズ純度高めのギタリスト

さて、そうした影響の少し前のギタリストに入るだろうか。この20年くらい「なんなんだ、この人は?」と思っているのがアダム・ロジャース。6月に来日してリーダーライヴを行なっている。この人は音楽のカテゴリーに対しては基本的に正統派な人だと思う。

ただし、彼がこなすのは一つのスタイルではない。ジャズ、ロック、クラシックその他。どれもスタイルに合わせてバチっと決めてくる。ある意味破綻がない。そしてその密度が異常に高い。隙がない感じがある。Lost Tribeでやっていることもすごく理解が行き届いたオーガナイズされた感覚に溢れている。浮遊感があるのだが、自分が地図のどこにいるのか常にわかっているような。

その上で、彼独自のフレーズの組み立てがあったりするし、奏法も逆アングルによるピッキングや独特のヘッドを下げたフォームと彼にしかない存在感がある。こうした個性は、正確無比なリズムとトライアドを応用したインテリ度と基本性能の異様な高さが見えにくくしている。

アダム・ロジャースは昨年DICEをリリースして、ここでも取り上げている。

自身のバンドでの初来日

コットンクラブでのライヴはギターファンが多く集まっていたが、同じくらいネイト・スミスを見ようというドラマーも来ていた。ネイト・スミスは自身のバンドでは、現代のドラマーらしい様々なアプローチの音楽を演奏していて、音楽のスタイルということ以上に幅広いビートに注目している感じがある。その中でもジャズの締める度合いは高いほうではないだろうか。

ベースはアルバム同様、長年信頼を寄せるエレクトリックベース奏者のフィマ・エフロン。ド派手な演奏はしないのだが、常にメロディックな雰囲気を作れるし、リフでのグルーヴィな感覚もある。自身はけっこうはっちゃけたバンドで演奏したりもしているのだが、この人も基本性能は高く、その上で底を見せてこない。

アダムはスタジオミュージシャンぽい仕事も多数こなすギタリストだが、このバンドでは主役感を出す。そういうところも万能型の男と言えるかもしれない。マッチレスとツインリバーブの2台をギターアンプとして用意。それなりにエフェクターも仕込んであったが、基本的にはシンプルなセッティングだった。サンバーストのストラトキャスターにアームを付けて現れると切れ味鋭いリフを決めまくった。いや、とにかく切れ味がいい。他のメンバーとのシンクロ度も高く、よく研いだ刀を振り回す組み手のようだった。

アルバムの楽曲ばかりやったのだが、無理やりなメトリックモジュレーションを組み込んだ楽曲は録音で聴くより凄まじいものがある。そんな風に切れ込んでなんとかなるのかなというリフを躊躇無くアダムが入れると、それを合図にバンドのリズムが変わる。この日はいつも眉間にシワをよせてるけれど、ニヒルな笑いを見せる場面も多く、この人、実は音楽を滅茶滅茶楽しんでいる。

ソロではロックなスタイルでガンガン決めてきて、相当テクニカルな印象。シュラプネルの人かなと思う場面もあると思えばバディ・ガイばりにぶっといチョーキングをグワーンと決めてきて、見ていて”やっぱエレキギターってこうだよね!”というカタルシスに溢れる内容。やっぱソリッドギターかっこいいわというギターキッズの世界だったのは間違いない。

そこにコード解釈をトライアドの組み合わせたフレーズでパズルのように組み込む構築美と、ストラトのハーフトーンやアーミングなどなど楽器を完全に支配下に置いて自分のデバイスとして操っているのだからすごい。“ギターってこんなに容易に弾けますよっ!”という感じはスマホのデモを老人に見せて売りつけてくる勧誘員のような危なさ(笑ーちがうか)。

ネイト・スミスがまた凄くてヘンテコな拍子のリズムを熱くグルーヴィに決めて、フィルインでも盛上げるので、ライヴ全体の温度がどんどん高くなる。セッティングは全体的に高さが無くて、今風の印象というか。

フィマ・エフロンは複雑な曲ほどシンプルにラインを提示する。そのため楽曲の太さを失わず、とにかくロックでカッコいい雰囲気をキープし続けるのに一役買っていた。

アンコールでは「じゃあブルースをやります」と言って始めたのだが、ブルース進行の上でアクロバティックなフレーズを決めまくっていて、客席側は大半が口をアングリ。“ブルースってこんなに新しいんだ!”という内容と高いテンションで圧倒したのだった。しかも確かにブルースだよねという納得感もあって、天才科学者が簡単な数字で構成された難しい関数をファッショナブルに回答するような感覚と言うか、、、。まあとにかくすごかった。

ギターはロックでは主流だがジャズでは傍流な扱いを受けているところがある。特に古くからのジャズファンにはそう思われている節がある。

しかし、どの音楽からもちょっとつまみ食いしながら独自の発展を遂げてきたこの楽器が今、世界中の様々な場所で大きな意味を持って輝いている。Youtubeやインスタグラムなんかから出てくるアクロバティックなギタリストも多くいるし、ギターという切り口だけでも相当幅広い音楽が楽しめるのではないだろうか。

それでその幅広いギターの海のいろんなところに航海に出ていくアダム・ロジャース。最新のモーターボートとかホバークラフトみたいな自在さはやっぱりすごい。

(文/鈴木りゅうた)

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