録音、そして取り巻く環境~類家心平インタヴュー Vol.2

昭和50年代生まれはレコード、CD、MD、、、、そしてサブスクリプションと、様々な変化の中で音楽を享受してきた。どういった形式であれ、作った音楽は聴かれなければ意味がない。そのうえでどのような観点で録音するのか、また、より表現を的確に伝えるためには、録音するというプロセスからの話も重要だろう。

RS5pbではエネルギーが一つのテーマだろうか。類家は「エネルギーのあるものを音源にするのは難しくて、その熱をどこまで入れられるかは課題」としている。常に現場に出ている彼と話した音源の伝達やライヴなどについての話をお届けする。

リアルな感触に近づけるには

スタジオだとやはりある程度、整理される?

「録音物だとどうしても曲が短くなるし、結構難しい作業。レコーディングになるとどうしても行儀良くなっちゃうし。出来る限りエネルギーが伝わるようにやったつもりではある。それでもミックスダウンしてマスタリングしてとなると、どうしても音が均されていくので難しい部分はありますね。これ、トランペットの音も割と歪み気味なんですよ。アナログを作った時はテープで回してカッティングにもっていくなんてこともしましたけど、やっぱり少しピーキーな方が雰囲気が出るんだよね。そういうのはアナログ盤のほうがやりやすいんだろうけど、CDにした時にもできたらいいなと思って。

このバンドでトランペットの音をレコーディングして自分の音を聴くと、コンプがかかって、さらにそこにEQとかいろんなものが掛かってくると、普段自分で吹いて耳で聴いている音とちょっと違う。実はそういうのは他のトランぺッターの録音でも結構あって。例えばウィントン・マルサリスはアルバムの録音で音色的にあまりピンとこないんだけど、生で聴くとメチャメチャいい音してるんですよ。周波数的なことや倍音なんかでそういうことがおこるらしいんですけど、どうしても生音に近い感じでパッケージできないジレンマはある。

Body & Soulで録音したカルテットでのライブ盤はスタジオデデの吉川さんが録音してくれていい感じにできた。あれはコンプもあまりかかってないと思うし、ステージマイクとエアだけ。一応、各楽器にマイクをつけてたけど、ドラムのマイクにもトランペットの音が被ってたりする。その逆も起きてたし。でも、それが良い方向に作用しているのかな。だから今回は割と突っ込み気味な音場にしてある」。

録音は時間をかけた?

「これは1日で10曲録音したんですよ。エンジニアは前回『UNDA』を録音した時と同じ斉藤さんだったし、マスタリングも鈴木さんでサウンドの感じも大体わかってくれていたし。もちろん曲によってはいろいろ試してみたかった部分もあるにはあるんだけど。まぁ今後はゆっくり録音できるようなシチュエーションがあったらいいとは思いますけどね。

それでも昨今はいろいろな人が関わってくればくるほど、そうゆうスケジュールの事は難しくなってきてますよね。あと、今はみんな家で作っちゃってるから」。

聴く人が何を使って聴くかは良い悪いではない

音像として考えたことはありますか。CDとかより最近はサブスクリプションが優勢だけど。ロバート・グラスパーなんかは”CD貰っても困るからSpotifyやBandcampのリンクを送ってくれ”とTwitterで言ってたりもしてます。フィジカルは劣勢というか。

「今はみんなパソコンやiPhoneで聴くから、音がエッジーな方が映えるよね。もちろん録音のやり方とかミックスもあると思うんだけど、やっぱりその方が聞こえやすい。どういうメディアでリリースするかは結局聴く側に委ねるものだから、こちらからどうにかできるものでもない。

今はCDが出た日にSpotifyやiTunesで聴いてる人も多い。それが良い悪いという話ではないんですよね。それで内容が良ければCDを買う人もいるだろうし。でもどういった媒体でリリースするかという問題の他にも、ジャズを聴く行為そのものが死んでしまうかもしれないという問題もある。ライブハウスに足を運ぶ人も高齢化しているし」。

ライヴミュージックとその他のエンターテイメント

実際、今はエンターテイメントがジャズに限らず音楽以外にもたくさんありますもんね。

「ジャズを聴いてくれている人たちは、エンターテイメントがあまりなかった時代に熱中してた人たちが多いというのはありますよね。音楽をしっかり聴く行為自体は結構めんどくさいじゃないですか(笑)。それを考えると、なかなかそこの勝負は大変な部分はあると思います。でも、そこを超えてリスナーを引張ってくるだけの力が音楽にないといけない。

ライブの現場ではロックのお客さんは音源と同じことをやることを期待して会場に来る。だから、そうじゃないハプニングを楽しめるというかね。違うことも見れば楽しいと思うんだけどね。でも、そこまで足を運ばせるラインがもう一つ必要。もちろんライヴを見てもそんなに響かない人もいるだろうけど。それでも、見てもらえれば意外とたくさんの人に響くんじゃないかなという気がするんですけどね」。

セルフプロモーションの功と罪

急にライヴはできなくなってるけど、どうですか。それまでは年間250本くらいはやってた?数えてないか(笑)。

「まぁそれぐらいはやってたのかな。でも逆に今はいろんなことに気がつくための時間というか」。

最近はすごく発信力とか求められますよね。そこは加速しそうな雰囲気ですけど。個人的にはいい面もあるし、そうではない面も感じます。

「何でもいいからいろいろTwitterにつぶやいたりとかね(笑)。まぁそういうのは苦手であっても音楽の才能がある人はたくさんいるだろうし、それはそれでこういう状況はどうなのかなと思わないこともない。元来そういうのが苦手な人がミュージシャンになってる部分もあるから(笑)。でも今の若い世代の人はハイブリットな人も多いからそういうところには長けてますよね。別にそういう情報発信に抵抗もなかったりするし。そもそも音楽活動をし始めた頃からネットがあるからそうした能力も高くて、普通にできる。だから、そういうところですよね。」

我々の世代はけっこう狭間。それに実際、人間が破綻してるような人がすごく魅力的な音楽をやることもありますし。

「もちろんそうですよ。もう音楽しかない人の出す音っていうのはありますよね。そういうのはなかなか聴けなくなりますね。それはどうなんだろうとは思います」。

インストだからこその可能性もある

サブスクは人口の多い国で人気が出て再生回数が増えればとか、またマーケティングには違う視点がありますよね。インストはその辺、チャンスがあるんじゃないかとも思ってます。言葉も関係ないし、どこに好きな人がいるかはわかりませんし。

「日本国内だけで見るとマーケットは小さいよね。でも、例えば日本でもECMがすごく好きという人がいて、それを世界単位で考えると結構な数になるわけですよ。今はそういう発想の転換が必要なんでしょうね。配信では確かにそういうことを狙えると思います。

インストは国内での市場規模が小さくなってるから、実際に国内だけじゃなくてもっと世界規模で考えたほうがいいと思うんですよね。2018年に中国でライブをやりましたけど、あそこでもアバンギャルドな音楽が好きな人も結構いるから」。

中国はどんな感じでした?

「そこは割と特別なシチュエーションで。日本の古くから活躍してるジャズミュージシャン、例えば山下洋輔さんとかOMAさんの曲をラジオで流してる人がいて、その人の主催でやったイベントだったんだけど。その時はアメリカとかヨーロッパから来てるミュージシャンも多くて、どちらかというとフリージャズとかアバンギャルドなミュージシャンも多かった。古い倉庫を改造したライブハウスみたいのがあってそこに普通に500人ぐらい入ってました。AKETAの店でやってるようなフリージャズにお客さんが大熱狂してる。それは単純に発展途上の音楽シーンだからというのもあるのかもしれないけれど、とにかく熱いものにすごく熱狂する人たちがいっぱいいて。普通にオリジナルやってるヨーロッパのバンドの演奏を見てる人もたくさんいたし。

RS5pb

RS5pb(左から鉄井、吉岡、類家、中嶋、田中)

じゃあ、音楽のリテラシーが低いのかというと決してそういうわけではない。みんな一生懸命聴いてるんですよね。その中でも日本で60年代にやってたようなフリージャズに熱狂してる。10年たったらまた違うことになっているかもしれないけど、すごく熱狂的な場所でした。ジャズの歴史をひもときながら聞いている感じではなくて熱量の高い音楽があって、それに素直に反応してる感じ。そこは去年OMAさんが演奏しに行って、灰野啓二さんも凄く人気があって。後は坂田明さんとかも。昔から好きで聴いてる人もいるだろうけど、多くの人が”この人はこういう流れで”とかそういう知識を持って聴いてる感じではなく、そこで流れてる音楽に対してしっかり聴いている。

やっぱり日本ではちょっと分析しちゃったりしますよね。どういうバックボーンがあって、どういう流れで出てきたものかとか。後は意味を求めたりもするし。でも、実際にはそういうことは実は関係なく聴いても全然いい。実はそうじゃない部分もあったりしますし」。

確かに腕組みしながら聴いちゃう部分はあります。

「実際にライブハウスに行くとなるとお金はある程度払うから、何かそこで、自分が足を運んだ意味とかを考えちゃう。ある意味では自分が何を聴いたのかという情報とかこういうものを聴いたという確証みたいなものが欲しいじゃないですか。3000円払って楽しんだというシンプルなものはもちろんあると思うけど、“こういう人を聴いた”と言うものが欲しいから。単純に楽しかっただけでは満足しなくなってくる。体験じゃなくて、情報にお金を出してる。

ジャズは体験する音楽

でも実はジャズはそこからもっとも遠い音楽というか、実は体験するとか、その場で起こっているハプニングを体験することがもっとも大事。ライヴに行くと楽しかったとか心が動いた体験が必ずあるという保証があるのがミュージシャンの魅力なんでしょうね。

でもそれが保証できないとなっているのかもしれないし。もしハズレだったりするとその場所に参加することに臆病になって、どうしても有名なお店や三つ星ついてるところになっちゃう。そこを開拓していくような余裕もみんなにはもうないのかもしれない。

もちろんミュージシャンのほうも良い時もあれば悪い時もあるし、それを超えていろんなものを体験するんだと気概を持っているリスナーも多くもない。リスナーとしてもこれだけネットでYouTubeも含めていろんなものが見れると生ものに対していろいろ払えなくなってきますよ。

さいわいジャズはハコの規模はそんなに大きくないから、そういう場所で日々のライブをやってる人も多いし、その分ではまだ文化として救われている部分もあるの
かな。今はやっぱりニューヨークのスタイルが強いからそこに侵食されてることもありますね。それでも日本で独自にやってきた人たちの感性とかそういうことも大事にしていければいい」。

日本独自の感性はじわりと滲めば十分

なるほど。“音楽は世界共通語”なんていうけど、自分としてはそれをすべての部分で肯定はしてなくて。その文化圏に属しているからこそ共有できる、共感できる、楽しめるものはあると思うし。

「この前、ギタリストの渥美幸裕が関わっている津軽三味線の小山さんという人の録音に参加したの。小山さんは僕らと年齢も同じ位で。その時は天倉正敬がドラムを叩いていて。俺は2曲ぐらい参加した。自分はそんなに邦楽が好きなわけではないし、聴いてきたわけでもないんだけど、出す音がすごく共感するんだよね。そこは面白かった」。

そういうことだよね。じゃあ類家君がこれから“篠笛を吹いてこう”とかそういう話ではないじゃないですか。やっぱりそこはトランペットを吹くわけで。

「そうそう。実際にはそこで邦楽をやるとかそういうことではなくて、西洋の楽器を吹いていてもそういう日本ぽさが出てしまうくらいの感じでちょうどいいんです。あえてわざわざ“春の海”とかをやらなくてもいい。それをやるのが日本人だとかそうではなくて、どうしても消せない臭いというのがあってそれが出るだけ。寄せ過ぎるとすごくいやらしいから(笑)。アヴィシャイ・コーエンのアルバムでも相変わらずいろいろやってるし、いろいろ混乱してる混沌としてるんだけど、そこに個性が出てるんだよね」。

類家心平のトランペットから気温が低い北国の雰囲気を感じることがある。北での暮らしを体験した人だけが感じる空気感をそこに感じるのだ。そんなことを思い出した。たしかにこのRS5pbでは個性が滲み出てくる。このインタヴューがそのテイストを感じ取る一助になれば幸いです。

(文・取材/鈴木りゅうた)

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