RS5pbライブレポート~類家心平2days~言葉なき預言者

ジャズ表現者の穴蔵へ

新宿ピットインで連続公演を行うということは、ジャズ界隈で活動するプレイヤーであれば、一つの段階に達したことを示す。さまざまな荒波が襲う音楽シーンで、永く一定の芯を持ち営業を続けてきたピットインという場所。演奏者の表現したいことを主座に据え、さまざまなことが行われるステージ。あらたなジャズが生まれる場所の一つ。

精力的に音楽に邁進してきたトランペッター類家心平が、2026年2月末に2daysを行うと知り、彼も一般的にそうした認知を公式に得たといっていいだろう。ただ、そうしたことを彼自身が特別どこかに飾り立てるということはないだろう。もちろん、そのことについて尋ねれば“光栄なこと”と答えるだろう。それでも、ただ、音楽に向き合い何かを掴もうとしつづけている。頻繁に出演してきた場所での特別な出来事。だからこそ、特別なこととするのは私のような書く立場にあるものの使命ということになる。    

1日目は大友良英氏とのデュオで、こちらは大盛況だったという。この二人は池袋kakululuでライヴレコーディング作品をリリースしたばかりのタイミング。この『ラムネと発電所』だけでなく、類家が大友良英カルテットのメンバーとして頻繁に世界中をツアーして回っているという関係性でもある。

自分は幸いなことに2日目、RS5pbのライヴを観覧することができた。

盛況の2days

類家心平が続けてきたRS5pbについては、前身のまだカルテットの時代を過ぎて、5ピースバンドと名乗っていた頃と、その変遷も含めて定期的に見てきた。むしろ、それだけ長く、コンスタントに活動を続けてきたユニットでもある。

田中TAK拓也をレギュラーのギタリストとして迎え、RS5pbという名称で活動するようになってからも、結構な月日が経った。初期から共通しているのは構造的な楽曲、それぞれのメンバーも含めた熱量の高い演奏、メンバー個々のキャラクターの開示と冒険心あふれるアンサンブルだ。一方で、それぞれが明快な太い線を描くようなことが、このバンドでこそ、個々のメンバーから引き出されている印象がある。そのうえでこのバンドの集団としての爆発力のようなものは大きく進化しつづけている。

この日は当初からレポートすることを決めており、撮影を自ら予定していた。そのため開場時間より少し早くにピットインについたのだが、すでに入り口には整理入場のための人だかりができていた。結局、自分は開演間近に入場した。

入場するとDJブースですでにこの日の主役は忙しくレコードやCDを手に、選曲した音楽をかなりの音量で流していた。この直後には演奏があるはず。忙しそうだ。「おう、来たね!」ぐらいの感じでお互い軽くコンタクトを交わすと、満員の客の間をさっとすり抜けてステージへ向かっていったのだった。

力は入っているが力みはない、といった風情。昨年リリースされた作品以降、バンドメンバーは全員繋ぎを着るようになった。実は“あれはなぜなのか、これはどうなのか”と紐解くために彼らに直接尋ねることはあえてしていないのだが、このワーカー風のファッションには創作者、職人的なクリエイターをイメージしたもののように思う。衣装というよりも仕事着。全員がステージで音楽を“創る”、イメージで私は捉えている。事実、ここで行うことは、個々の磨いてきた演奏技術などを創作に向けて差し出しているように思う。

暗転してエフェクトを効かせたトランペットの響き、不安定さなどを楽しみつつ始まったライヴ。まず基本的に鋭いという言葉が浮かんだ。類家だけではなく、個々のアドリブの鋭さ、個々の演奏への反応の鋭さ、楽曲の解釈する視点の鋭さ。

例えば類家のソロが終わり、鍵盤の中嶋錠二が引き継ぐと、それもまた緩急をつけ、2度3度と盛り上がる。前が100まで盛り上がったのならそれ以上を目指す。そうした方向性を鉄井孝司、吉岡大輔が鋭く感じ取り、しっかりと温度を上げる。もちろん、それはベース、ドラムだからということではない。ギター、鍵盤、トランペットにおいても同様だ。激流のように急角度で流れていくような楽曲、とくにテンポがある程度早い曲では顕著だ。

一方で、メロウでメランコリックな楽曲を演奏するのもRS5pbの特徴だ。鋭さはそのままに、ハードボイルドで、温度の低い氷点下の音が突き刺してくる。

躍動する実力派のメンバーたち

この5人での演奏をいわゆるジャズ五重奏ではない形態にしてきたのは田中のギターの存在がある。歪んだギターを背景で弾き続けるノイズ、メタル・ハードコアアプローチのリフ、いきなり昇天したようなフリーキーなソロ、その合間で的を得たようなコンピングなどもある。一方で彼の役割はもう一人のホーンであり、鍵盤奏者的であったりもしており、単純にジャズギタリスト的な存在ではなかった。

そうした効果は外のメンバーにもフォーマットからの逸脱をもたらしているのではないかと思う。ここ数年で、クールな演奏していた中嶋錠二の鍵盤からは、ピーキーな歪みを含んだキーボード演奏が一つの見せ場として楽しませるようになり、クレイジーな痺れるような感覚を弾けさせたりする。

鉄井孝司はこのバンドで最近はシンセベースも導入している。もともと全体のサウンドをトータルして計るタイプのプレイヤーでもあり、単なるベース奏者というよりも音色やビートの出方なども考慮していることが見え隠れする。聞けば、基本的には自発的に新たなものが導入されるのがこのバンドのシステムでもある。

吉岡大輔のドラムは先鋭的でダイナミクス溢れ、よりバンドの演奏が楽曲の持つ感情の起伏に合わせて大きく上下するのを助けた。マシーンビート的なアプローチなども随所に織り込みつつ、フィジカルならではの流動的で柔軟なアプローチが幅をつける。そうした意味で物語を演出する要でもある。

田中拓也にしてもフィジカルな距離センサーを付加したオリジナルの改造ファズを取り入れて視覚的にも見せるなど、類家も含めて毎回が進化の過程にある。みなが積極的に自らこのバンドへと自己開示をする場になっているようだ。

この日の演奏は最近、自分が感じていたこうしたこのバンドメンバーそれぞれの味わいが顕著に出ていた。そうした意味では、このフェーズは完了し、今、第三期へと伺う状況に感じた。

この日ライヴで演奏された楽曲は多岐に渡っていた。初期から演奏していた曲だけでなく、まだ録音されていない楽曲も演奏されたりした。主役の類家は、こうした音楽的に気の置けないバンドメンバーたちが類家自身の音楽コンセプトの中で伸び伸びとやる中で、コンポーズとインプロヴィゼーションの間で、それ以上に伸び伸びとやっている。楽曲はある、そのうえでその瞬間に生まれてくる何かを最大限に生かしながら演奏している感覚が強くなっている。トランペットの音色もさまざまでそこはフリーインプロヴィゼーションでソロを行っている時とも共通点が多いにある。

一方でバンドならではの一体感とエネルギーをしっかりと意識しているようにも思う。

結果的に2セットを終えて演奏をただ集中力高く積み重ねたライヴだった。そうした結果、その場で聴いている人にとってのカタルシスが非常に感じられる音楽になっているのではないか。RS5pbの音は爽やかでも耳障りがよいというものでもなく、どちらかというと刺激的で、毒の多い劇薬に類するものだが、見終わった後の妙なスッキリ感がある。ピットインを後にするお客さんたちの顔を見ていてもそうした解毒したような感じを受ける。

また、ステージ間、終演後も、ヨーロッパで入手したマニアックな音源を流し続けた類家。空間をどう演出するかということを常に考えてきた彼らしい1日でもあった。

トランペットを中心に据え、言葉以外の何かを駆使してあふれるさまざまな感情が表現されている。それは喜怒哀楽、不安、自信、そのゆらめき、そして希望などが渾然一体となって、聞く人が抱える何かと反応しているように。

この十数年の変化と進化

さて、2013年に荻窪ベルベットサンで行われたライヴレコーディングがCDになっている。自分はその少し前くらいから何度かRS5pbを見ていると思われるし、なんならこの日のライヴもその場で見ている。その当時の音にはかなりエレクトリックマイルス的な世界観とサウンドが見える。突発性と瞬発力、独特のダークで狂気を孕んだハードボイルドな世界観は今と共通しているが、より個々のメンバーがフォーカスしている何かが強い印象がある。今思えば、このころはそれぞれの解釈を模索していたのかもしれない。それはそれでライヴミュージックとしての一期一会な瑞々しさがあるが、サウンドとしての渾然一体感とはトレードオフな部分ももちろんあるだろう。

しかし、今回のピットインでのライヴでは一期一会、その空気に醸成された瞬発力的なものも残しつつ、各人がリラックスし、自由闊達にアプローチするという状況まで進んできていたことがよくわかるものとなった。そして、これからまだ先の変化も感じさせる。

実は本来であれば香港などでの公演を控えていたはずだったRS5pbだったが、多くのエンターテイメントと同様に公演中止の憂き目にあってしまった。このライヴを終えて3月以降は、そうした状況が改善するどころか、単純な国際情勢に済まず実際に戦禍が広がる状況が見えている。さしあたって常に世界は平和ではないが、誰もが生まれた場所に関係なくさまざまな音楽を楽しめる状況を望んでいる。

RS5pbの音楽も幅広い世界で聴かれる素地はできているし、そうした活躍にも期待するべく改めて平和な状況を望んだ次第である。

もちろんイデオロギー的なことは置いておいて、類家心平によるRS5pbをライヴでぜひ体験してほしい。国内であればその音楽に身近に触れる機会があるだろう。

【RS5pb】
類家心平(tp)
田中TAK拓也(G)
中嶋錠二(p,Key)
鉄井孝司(B)
吉岡大輔(Dr)

〈取材・文/鈴木りゅうた〉

写真提供:Pitt inn
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