類家心平と岡本太郎〜アトリエで描いた即興演奏と『METAMORPHOSE』

アルバムは曲を並べた感じの即興演奏を取り揃えた

RS5pbやカルテットなど自身の活動を精力的にこなすトランペッター類家心平。さらには世代や地域を超えた様々な共演者との演奏など幅広い活動を展開している。そんな中、「ソロでのアルバムをリリースする」という話を聞き、その活発な活動に今、類家心平が思う創造性はどこに伸びているのかに強く興味を持った。

届けられた作品『METAMORPOSE』ではトランペットを様々な音色で響かせる。エフェクターを加えて拡張したり、サンプラーを用いて世界観を演出する場面もある。収録曲の多くは即興でゼロから構築された。自身が作曲した既存曲も含めつつ、自分自身の発露と空間に影響を受けた作品として制作されたこの作品を通し、ソロでの演奏やインプロヴィゼーションについて掘り下げて話を聞いた。

◾️岡本太郎のアトリエでソロアルバムを創ることになったのはどんな流れからですか。

「岡本太郎記念館の館長でもあり、今回のソロをリリースするレーベルのDays of Delightを主催する平野暁臣さんが3人ぐらいのミュージシャンをピックアップして演奏する動画のシリーズがあって。デュオとかトリオとかいろんな編成で組み合わせて演奏するというものなんだけど。ソロアルバムの前に、ピアノの武田理沙さんとギターの加藤一平ちゃんと3人で今年の4月にそのシリーズの中で演奏してて。その動画はYouTubeに、まず8月の頭に俺のソロ動画があがって。それぞれソロでも弾いていて。後で3人でやったものも公開されて。

それで、ソロアルバムを録音するきっかけは実は、その前に平野さんが、下北沢のNo Room for Squareでソロでライブをやった時に見に来てくれたことなんだよね。ずっと前に会った事はあったけれど、その時は自分は最初、来ていることに気づいてなくて。その時のライブをすごく気に入ってくれて、ソロアルバムを録音しましょうということになった。それで6月に録音しました。

 平野さんはインプロヴィゼーションの音楽を積極的にリリースしているわけではないけれど、すごく気に入ってくれて。最初は全部インプロヴィゼーションでやろうと思っていたけど、録ってるうちにアルバムなので曲っぽいものもあったほうがいいと思って自分のオリジナル曲もやることにした。録音の場では思いついたものをボンボンポンポン録っていって。サンプラーとかエフェクターもちょっとだけ使った。そんな感じで1枚分一日で録れた」。

◾️平野さんのレーベル作品は空気感を録る感じの印象があります。この作品もフリーというよりインプロである上で空気感があって、間とか表情が読み取れるみたいなものを録ろうとしてると思いました。

「多分、そういう感じ。だから、いわゆるフリージャズみたいな音楽はあまりリリースしていないと思うんですよね」

◾️類家君は自分一人でのライブは昔からずっとやってきているけれど、管楽器一本でソロをやるのはハーモニーをすぐに表現できなかったり、結構難しさがあると思うんですけどどうなんですか?1人なんでハートの強さというか、そういう部分も必要だし。もちろん、その分、自由にできるところは大きなメリットですよね。

「そうね。例えば他の楽器のソロなら、ジャズの曲とかではコード進行が見える感じで演奏する人もいて、それで素晴らしいものもある。自分も場所によってはお客さんの様子を見ながらジャズの曲を入れることもある。コード進行がある曲だと自然にコードに合わせたアドリブをしていくことになる。コード進行というフォーマットがすでにそこにあってそこに嵌めていく感じ。

でも、自分のやりたいものはそういう既存の曲をやるところがメインにはない。自分のやりたいものがその場でゼロから出来上がっていく過程を見てもらいたいんですよね。ワンセット通して積み上げていったものをお客さんと一緒に体感するライブが自分は好きで。その延長線上で、レコーディングもできればいいと思ってはいるけど、レコーディングだとライブともまた違う。

 ライブは聴く人が同じ空間にいて、同じ空間を体験しているからお客さんが媒体になる部分は多いにあるし、やる側もそれに触発される空間。間があってもいいし、そうしたことも積み重ねてる。だから、最後の5分は、最初から演奏や時間を積み重ねてきた上での最後の5分でもある。そうしたプロセスを経由してくるものと、レコーディングはまた違う。そう考えるとレコーディングだともう少し短くした方がいいと判断して。レコーディングでは自分のやりたいことや集中力をグッと詰め込んだものが、いっぱい並んでるみたいなものが面白いと思ってね。それで割と短い感じで、曲を並べた感じの即興演奏を取り揃える形式にしました」

純度が高いものをやり続けなきゃいけない

◾️ソロでフリーインプロビゼーションは自由であるが故に、自分の不自由さも感じるフォーマットではない?

「ソロはどこにプライオリティーを置くかでいろいろ影響あるよね。曲のフォーマットがあれば、ある程度コード進行があるから、曲が始まったら推進力がある。曲が進んで終わる部分では楽。コードが変わっていく中でそこに合わせたアプローチをしていくものの連続になる。コード進行にあったものをどんどん提示して行かなきゃいけない仕組み。

だけど、インプロのソロでは、推進力は自分で作っていくしかない。何を吹くのか、どのトーンを選ぶかとか、そこに関してはすごく自由。なのでそこは楽だったりもする。自分で始めたら終わるまで自分が止まると、時間も止まってしまうので推進力に関しては、自分でアイディアを出して進めていかなければいけない。どちらも一長一短あって、自分が好きな方、得意な方をやればいい。でも本当はどちらも交流してやればいいんだろうけど。

でもソロに限らず即興演奏で本当にクリエイティブなものを出し続けるのは本当にしんどい。そこはやっぱり何かしらを変えていかないと難しいものがある。同じメンバーだと決まってくる部分もあるし。でも純度が高いものをやり続けなきゃいけない。だから本当にすごく難しくて。

 生前のプーさん(菊池雅章)を見に行った時に、ライブの即興が6分7分位の曲みたいになってて、それぐらいの時間で一度づつ終わるんだよね。一度終わって、次に始まるとそれがすごく新鮮でね。全然前と違うことをやり始める。そういう感じで続けていって、最後に黒いオルフェだけは曲をやった。あの考え方というか、やり方はすごく面白い。それぞれコンセプトを決めているのかもしれないけど、やっぱり前やったことと全然違うことから、次の曲というか即興がスタートしていて。それが即興でもあり、すごく面白いと思った。ところでプーさんはすごい人ですけど、ひどい噂も色々あったみたい(笑)」

◾️表現者の素行や生活態度に対しては今は厳しい時代ですね。音楽はすごくても人間ダメみたいな人は出て来れない。以前はクラシックでもパガニーニとかアカデミックなところで崇められてるけど、実際は悪魔みたいな人だとか言われてたし。ジャコ・パストリアスも朝4時に”バスケやろうぜ!”と人の家に来たり(笑)。人間めちゃくちゃでも音楽はすごいみたいなタイプの人は、今は絶対、出て来れない。そういう人はインターネット以前はたくさんいましたよね。

「割と昔の人はみんなそうなんじゃないの(笑)?そういう意味では今は大事なものを失っている部分があると思う。バグがない時代になってきてるから、法律的にNGなものや、グレーなものは受け入れ難くなってきてる。ただ、本能的には芸術とかは人間のその辺が面白いと思ってる。一方で、時代がそういうものを求めてないというのはあるのかな」

音は無くなっていくから、最後に出来上がったものを心地よいものにしたい

◾️スタジオやアトリエでインプロで録音する場合、空間以外は自分の中のテーマに集中することになります。今、類家君が書道家の方とやってるZANKÔとか、以前もLANDSCAPE JAZZ ORCHESTRAとか、ペインターを入れて映像を重ねたりとか、そうしたパフォーマンスもまさに積み重ねられて完成していく過程を見せていくライブでした。今の話を聴くと、ソロでやるインプロビゼーションの考え方はずっと一貫しているように思います。

「そうですね。必然的なものが積み重なっていって、1つの形になるという考え方は以前からですね。音はどうしてもなくなっていくし、最後に全部聴き終わった時に、全部を覚えているわけでは無い。もちろん印象的な事は覚えてるかもしれないけれど、終わったときの出来上がってる概要というか、そういうものが心地のよいものであって欲しい」

◾️今回のアルバムのタイトルは『METAMORPHOSE』ですが、私が最初に聴いた時は全然曲のタイトルもない状態で聴きました。結局、曲のタイトルは既存の曲以外は”Improvisation #Ⅰ”みたいな抽象的なものにしてますよね。

「アルバムのタイトルは、『METAMORPHOSE』という岡本太郎の絵のタイトルなんだよね。その絵をジャケに使わせてもらってて。実は昔からあまりタイトルをつけたくない人なんですよ、僕は。言葉は強いからそれにフォーカスが持っていかれちゃうじゃないですか。せっかく歌詞のないインストメンタルをやっているので、聴く人に自由にイメージして欲しいという思いがある。曲を作る時も、何かのモチーフのために作るとかはあんまりしない。なんとなく自分の聴きたい曲みたいなものを作って。だから、割と後からタイトルをつける」。

◾️じゃあ、創る時は、無意識に作り始めて、生まれてきたものをどこかから削り取ってくるみたいな?

「そうそう。だから本当はタイトルもつけたくない。でも最後に出来上がったものを俯瞰して見て、そこにタイトルをつける作業は嫌いじゃない。そこは創作の一部として楽しいなとは思ってる。でも、最初から何かのためにとかではやらない」

◾️製造の過程として、目的が最初にあるのはちょっと息苦しい感じ?

「そう。そこは束縛されたくない。やっぱりタイトルがついてると聴く人が最初からそう聴いちゃうのはもったいない。解釈の可能性がいろいろあるのにそれを狭めてしまうから。今回はインプロビゼーションのものが多いから余計にね。だからタイトルはつけず、自由に思い浮かべてくれたらいいかなと思って」

どんな音色でアプローチするかは大事にしている

◾️音を聴くとコード感を押し出さなくても構造的で立体的な音像になってると思いました。そこは、音色に対する意識がものすごくあると思ったんですよね。吹き方を変えたものを積み重ねたり。

「音色の存在は大きい。例えばレコーディングの現場でちょっとアボイドノート(和声的に合わない音)かなという時も、音色によってはそれがありになることもある。音色が音程とかそういったものを乗り越えられることもあって。ギターとかはそれが顕著。ギタリストはエフェクターとかいっぱい使うから、どの音色で出すのかがすごく大事だったりする。自分は音程とかコードの中で、どんな音色でアプローチするかについてはとても大事にしてる。

エフェクターとサンプラー。使用するサンプルは時々入れ替えたりすることもあるという

でもこれは管楽器の中でもトランペットだからというのもあるかもしれない。トランペットは例えばサックスと比べると音列的に奇妙なことはできない。楽器の持ってるレンジの問題もあるし、唇がバテるとかそういうフィジカル的な面でもあまり有利じゃない。そのかわり音色が持つ魅力は大きい楽器だと思う。自分がトランペットという、そういった特性の楽器をやっているから、それを生かせたらすごく武器になるという考えがあります」

◾️その音色も含めて、この録音にはいろんな美しさの概念があるように聴こえます。1つの美しさを求めたということではなくて、その多様性が録音されてる。

「美しいという概念は、人それぞれでいいと思うし、捉え方によって美しかったりすることもある。ステレオタイプの美しさじゃない方が面白いし、幅も広がる。これがマスに受け入れられるかどうかはわからないけれど、それでいいとも思う。マスに受け入れられるためには、いろんな人が同じようにいいと思うことをやらなければいけない。例えば10人で会話をしてたら9人が共感できるようなことを言わないとその場がしらけちゃう。でも人数が2人だったら深刻な話もできる。意見が食い違うことも言えたりする。だからそれはこういうのが好きだっていう人に届けばいいという部分もあったり、、なかったり(笑)」

絵と対峙すると感じるものがあった

◾️岡本太郎美術館で演奏することは音に影響あった?

「実は個人的にはよく見に行ってた場所なんだよね。ブルーノートでライブがある時に空き時間を使って見に行ったり。ちょっとオカルト染みてますけど、実際の岡本太郎の絵の前に立って対峙するとやっぱり感じるものがあるんだよね。岡本太郎自体、俺は結構、昔から好きでね。メキシコのショッピングセンターの壁画になっていた「明日への神話」というでかい絵が、日本に持って帰ってくるってことになって、一時的に日本テレビに展示することになってそれを見にいった時はうわっと思ったし。あれはよかったですよね。今では渋谷の井の頭線の駅に常設されてるけど。

 録音に使ったアトリエのスペースは、普段は見ることはできるけど、中に入ることはできないようになってるんですよ。そこでレコーディングできるのはもう役得ですよ。神聖な気持ちというか。何かエネルギーを感じるというか。

うちの親父も絵を描いたり、版画をやる人で、親父の部屋がアトリエみたいな感じだったから。小さい頃からそういうところで遊んだりして、身近にあったし。石川県の錦山窯という焼き物をやってる場所でジャズイベントがあって。アトリエとは別に焼き物を展示するいい感じの建物で俺と須川崇志君と松丸圭君がソロをそれぞれやるというイベントがあって、その時もその窯の人にアトリエを見せてもらってすごく良かった。そういう感じのところがすごく好きなんですよ。何か生まれる感じがして。だから余計、岡本太郎のアトリエに入れたのは嬉しい」

類家けんじろう氏の版画を使用した一筆線。力強い。

どんな手法でもやりたいものが確固としてあればいい

◾️岡本太郎は芸術家としてすごく評価されたけれど、人間としても太さがありますよね。いろんな作品だけでなく、出てくる言葉とかも含めて。

「意外にもクレバーでちゃんとした人だったみたいですね。若い頃から世に出てるのでキャリアも結構長い。もう昔から天才だったんだなと思います。絵だけじゃなく立体もやってて、結構いろんな作品があって、筆で描いたり、版画もあったり。まあ当たり前だけど、いろんなことをやってたんだなって。

そういうのを観てると、デジタル処理が得意な分野であっても、センスが良ければアナログでやっていてもいいと思えるものはあると思う。デジタルでやれば一瞬だけど、それをアナログでやったからすごいとかそういうことじゃなくてね。例えばマイルスの『On the Corner』とか、今聴いてもすごくかっこいい。でも今だったら、ああいうトラックは秒で作れる。でも、それが秒でできたとしてかっこよくなるかどうかは別だよね。テクノロジーは進化するけど、やっぱりそれも使い方だと思うし手段でしかない。

だから、これをやりたいというものが確固としてあればいい。出来上がったものに対して、自分の思うクリエイティヴィティを組み込めれば、どんなものも手段としてはあり。そこは何を表現するかを考えて作ることに尽きる。時代を超えちゃうこともできるし。今はChatGPTがみんなに浸透して、いろんなことを簡単にできるようになってきて、シンギュラリティーなんてコンピュータが人を超えるなんてことも言われてる。

でもアートとか芸術は一律いろんなものが出揃った時点で、その中からどれがいいか選ぶ地点に戻る。だから秒で編集できるものもいいけど、逆にテープ切り張りに戻るかもしれないし。必ずしも最先端じゃないものが手段として残るかもしれない。もちろん便利さだけなら新しいものの方が作業も早いだろうけど、それが表現として面白いかはまだわからない。もしかしたら昔の方法論に回帰するということもあるかもしれないしね。そんな中で、自分たちは音楽をやる側としては一番アナログな部分をやる位置にいる。楽器演奏はとってもアナログなものだけど、常に磨き続けて行く事はやめちゃいけない。

 人間一律皆アーティストみたいなことを言ってる人がいて、やらなきゃいけない仕事はみんなAIに任せて、ものを作ったり音楽作ったりとかそのほうが幸せなんじゃないかという意見なんだけどね。それに結局、新しいことはもう今はあんまりない。大体新しいと思う事は昔誰かがやってたりするし

◾️実際に新しさは今はもう重要じゃなくなってる。農業や大工さんにクリエイティヴを感じたりもするし。出来上がってくる何が美味しいか美味しくないかみたいな結構シンプルな話になってる。

「そうだね。その辺は、気づきに個人差があると思うけど。いろいろ触って出来上がっていくってこともあるし、触りすぎてダメになることもあるだろうし、もっと楽にいければいいんだろうけど」

やり続けるからこそ見えるものがある

◾️もっと楽にというご本人を目の前にして、スケジュールを除くと結構パンパンでギシギシだよね(笑)。半メンバーとして関わっているユニットやバンド、あるいは自分が主催するユニットやバンド、その他にもあって、さらにソロもあって結構ワーカホリックな感じを受ける。自分自身ではそういう感じはあまりない?

「ははは。あまりワーカホリックだとは思ってないです。そこはやり続けるから見えるものがあると思うから。いろんな人とやる中でわかることもあるし。それに、休むとその分、取り返すのがすごく大変だし。移動日はやっぱり吹けないけど、でも、やっぱりホテルに帰って吹いたりする。でもやっぱりトランペッターはみんなそんな感じだと思うけど。すぐフィジカル的にも落ちちゃうから」

◾️確かに楽器を演奏するってそういうことですよね。活躍するアスリートがなんだかんだトレーニングを切らさないのと一緒というか。それに加えて根本的に好きだったりもするから時間があれば楽器に触れていたいというのもあるでしょうし。

「そうなんですよ。ギタリストの小沼ようすけさんなんか控え室でもずっとギターを抱えて誰かと話しながら弾いてますからね。結局、オフとかそういうものじゃないんですよ。もう体の一部。そこまでして、さらにそこから先に何があるかだと思うんですよね。そこまでしないと出てこないものはやっぱりあるだろうし」

謙虚でいること、作品を残すこと

◾️若い頃もすごかったけど、年取ってさらに凄くなっていくミュージシャンも少なくないもんね。70、80全然衰えないみたいな。ライブを観に行くと10年前よりすごかったなということが全然ありますから、そうしたことがその答えでもあるんでしょうね。やっぱり歩みを止めない事はとても大事ということですね。それでも、続けるということではコロナの時とかはいろいろ大変でした。自分もそうだったし。ミュージシャンは特に大変な状況でした。

「コロナの時はいろいろ考えたよね。エッセンシャルワーカー以外はそんなに世の中に必要ないこともわかっちゃったし。ミュージシャンは最たるもので、いなくても世の中回る。前からわかってはいたけどそれをまざまざと見せつけられた。だからアートとかそういうのをやる人は謙虚じゃなきゃいけないということをコロナの時に改めてすごく思った。やっぱり平和な世の中が担保されてるとか、そういう環境がないと何もできない。戦争か何かが起こったら音楽なんかやってる場合じゃない。

日常の中で食料を創るとか流通に係るとかそういう仕事をしている人がやっぱり重要なんですよね。ミュージシャンであることとか、表現者であることを大事にするのはいい。でも、その中でどんなに凄いことやっても大したことないというか・・・ピカソだろうが、シャガールだろうが、岡本太郎だろうが、平和だからこそなんですよね。寒さで凍え死にそうなときにはピカソの絵も燃やして暖をとるかもしれないし。自分としては素晴らしい絵を燃やすぐらいなら死んだほうがマシだと思うかもしれないけど、でも燃やしちゃうかもしれないしね。

 あとはやっぱり作品を残すことは大事だなということ。どんな状況であっても残しておくのは大事。コロナの時は自分でサンプリングしたり、トラックを作ったりしていたけど、そういうことをやる中で、ソロをやろうと思うようになって。だから、ソロでやることはコロナきっかけでもあった。自分を見つめ直すというか、1人でできるから手軽だし、あまり人に迷惑かけないでできる(笑)。それでやり始めて。

 やり始めるとヨーロッパのミュージシャンとかもそうだし、ネイト・ウーリーみたいなソロで色々やってるミュージシャンで、ジャズもやるけど、即興でもやるという人も結構いて。トランペットじゃなくても一緒に演奏したベンジャミン・ハーマンとか、トーマス・フローリンとかもそうだけど。それで即興でソロをやるのは現代アートみたいな雰囲気がある。やっぱり個人的にはそういう方が面白いと思って。シカゴのロブ・マズレクは自分で絵も描いたりしていて表現として一環してる部分もあって。自分はそういうのが面白いなと思いつつ、他の仕事もいろいろしたりしてね。

自分が主催ではないバンドで演奏することは、人の創作なので、自分のクリエイティブに時間を割いたほうが有意義と言えば、有意義。ただ、それは確かにそうだけど、それは周り巡って、自分に帰ってくるものもある。自分の苦手なことや意にそぐわないことをやってみて気づくこともあるし。どんな時も自分を出せるのがベスト。その他大勢として呼ばれるなら、それをやるかどうか考えたほうがいい。でも自分個人として呼ばれるのであればサポートをやる中で、学ぶべき事はあるから。いろんなことをやった結果、見つかるものもある。自分のことだけやってたら飽きるし」

◾️後はいろいろやるには体力は大事ですよね。今年も宮崎から倶知安へ移動とかなかなかできない。自分は倶知安に高校生の時いたから、その移動はとても大変だなと思って観てました。

「それは大事かもね(笑)。実は去年もニセコのフェスに誘われてて。それで今年も誘ってくれたのでぜひ出たいと思って、スケジュール見たら前の日は宮崎だった。でもまあ大丈夫かと思って(笑)。でもヨーロッパに行くと日本国内の移動は余裕だなと思う。新幹線とか楽だし、ヨーロッパは飛行機で十何時間とか、トランジットで数時間待たなきゃ行けなかったりしてね。何もすることないし、言葉もわからなかったり。それを考えたら楽勝ですよ。健康に関しては以前は結構、熱を出したりしていたんですけど、ここのところは健康(笑)

この日のインタヴューでは自身が進める他のプロジェクトや、さまざまな共演者たちのこと、日常のことなども雑談として話した。ぼんやりと、その先にどんな地平を目指しているのか、ただ犀の角のように歩むその先に、確かに見えている世界が彼にはあることがわかる。それは音楽でこそ感じ取れる何か。言葉の世界の外にある何か。

類家心平自身は相変わらず多くを語らない男だが、出会った時から音楽と常に向き合い続けている姿こそ変わらない。ただ、トランペットとともに未到の地へ、まだ見ぬ地平を目指している。

このソロ作品『METAMORPOSE』は表現者としてだけでなく人間としての真摯な彼の姿勢が描き出した瞬間を重ねたものが記録された。音楽にのみ許された消えていくからこそ生まれていく何かを、受け取った人がどう感じるのか。その受け止め方は無限に広がっていく。

インタヴュー・文 鈴木りゅうた

『METAMORPHOSE』

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曲目
1. Improvisation#1
2. Improvisation#2
3. Splicing
4. Improvisation#3
5. Dear
6. Improvisation#4
7. Improvisation#5
8. Coerulea
9. Improvisation#6
10. Improvisation#7
11. Amber Gris
12. Improvisation#8
13. Improvisation#9
14. Improvisation#10
15. Improvisation#11

(2025年6月10日 東京録音)

■演奏者
​類家心平 trumpet, sampler, pedals

LIVE INFORMATION

発売記念ライヴ
2025年10月10日(金) 公園通りクラシックス
東京都渋谷区宇田川町19-5 東京山手教会B1F
open :19:00/start:19:30
charge : 3,000yen
guest:石田陽子 (dance)
http://koendoriclassics.com/

《Jazz Night at the Gallery 2025》powered by Days of Delight

2025年10月25日(土)東京・南青山 岡本太郎記念館
open:18:45(予定)/start 19:00(予定)
出演:類家心平(トランペット)+瀬尾高志(ベース)
参加費:入館料のみ(一般650円/小学生300円)
定員:限定25名(抽選制)
詳細:https://taro-okamoto.or.jp/event/《jazz-night-at-the-gallery-2025》powered-by-days-of-delight/

“Ruike Shinpei solo” & “kaYak” Double Release Tour 2025
2025年11月22日 (土)  6 kaku coffee
青森県八戸市小中野8-13-2
open:18:00/ start:19:00
charge : 3,000yen (+1drink order)
https://www.6kakucoffee.jp/

2025年11月23日(日)  九十九草
岩手県盛岡市中ノ橋通1丁目8-4
open:18:30/ start:19:00
charge : 3,500yen (+1drink order)
https://wankosoba.jp/tsukumogusa/

kaYak Chiba Hiroki (modular synth) Ruike Shinpei (trumpet)

類家心平 オフィシャルウェブサイト

https://ruikeshinpei.com/

 

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